帳簿保存は義務、しかも長期
事業を営む以上、帳簿や書類の保存は法律で義務付けられています。
「領収書は1年で捨てていい」「法人だからずっと残す必要がある」など、誤解をしている経営者や個人事業主も少なくありません。
しかし、帳簿保存の期間を守らないと、青色申告の取り消しや追徴課税などのリスクがあります。
さらに、近年は電子帳簿保存法やインボイス制度の影響で、「紙だけ」「スキャンだけ」といった管理では不十分なケースも増えています。
そこで本記事では、個人事業主・法人別の保存期間の違いと電子保存のルールを整理し、ミスなく管理するための実践ポイントを解説します。
保存期間を誤るとどうなる?
帳簿や領収書の保存期間を正しく理解していないと、次のようなトラブルが発生します。
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税務調査で指摘を受ける
保存すべき期間前に廃棄すると、売上や経費の裏付け資料がなくなり、否認される可能性があります。 -
青色申告特典の取消し
個人事業主は、帳簿保存義務違反があると65万円控除などが受けられなくなります。 -
電子データ欠落によるペナルティ
電子保存の要件を満たさないと、電子帳簿保存法違反として追徴課税の対象になる場合があります。
つまり、保存期間の誤解は、税務リスク+経営への悪影響につながる重大な問題です。
保存期間は「税法」と「会社法」で異なる
結論から言えば、帳簿の保存期間は個人事業主と法人で異なり、さらに保存対象ごとに年数が違うため、一律ではありません。
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個人事業主(税法基準)
原則 7年(一部5年) -
法人(税法+会社法基準)
原則 10年(一部5年) -
電子帳簿保存法に基づく電子データ
紙と同じ期間+要件遵守
このため、「法人だから全部10年保存」「個人は全部5年」というのは誤りです。
正しくは、税法・会社法・電子保存法の3つのルールを横断的に押さえる必要があります。
理由:法律で異なる根拠がある
保存期間がバラバラに見えるのは、適用される法律や制度が違うからです。
大きく分けると次の3つに整理できます。
1. 税法(法人税法・所得税法)
国税庁が定める保存義務。
税務調査の根拠となるため、取引記録や証憑は最低限この期間保存します。
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法人税法129条/所得税法232条:7年(棚卸表・貸借対照表等は10年の場合あり)
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簡易な帳簿のみの場合は5年保存の例外あり
2. 会社法
株式会社や合同会社など法人形態に適用。
株主や債権者の権利保護のため、より長い期間が設定されています。
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会社法432条:会計帳簿・決算書類などは10年間保存
3. 電子帳簿保存法
紙ではなく電子データで保存する場合のルール。
スキャナ保存や電子取引(メール請求書、PDF領収書など)も対象です。
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保存期間は税法や会社法と同じ
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タイムスタンプ付与、検索要件、改ざん防止措置が必要
帳簿・書類の保存期間一覧
以下は、個人事業主・法人・電子保存における代表的な帳簿・書類の保存期間の一覧です。
書類・帳簿の種類 | 個人事業主の保存期間 | 法人の保存期間(税法基準) | 法人の保存期間(会社法基準) | 電子保存時の期間 |
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仕訳帳・総勘定元帳 | 7年(簡易帳簿は5年) | 7年 | 10年 | 同期間(要件遵守) |
貸借対照表・損益計算書 | 7年 | 7年 | 10年 | 同期間 |
領収書・請求書(発行・受領) | 7年(簡易帳簿は5年) | 7年 | 10年 | 同期間 |
棚卸表 | 7年 | 7年 | 10年 | 同期間 |
契約書 | 7年 | 7年 | 10年 | 同期間 |
給与台帳・源泉徴収簿 | 7年 | 7年 | 10年 | 同期間 |
税務申告書・決算関係書類 | 7年 | 7年 | 10年 | 同期間 |
電子取引データ(PDF領収書、メール請求書など) | 同上 | 同上 | 同上 | 同上(電子帳簿保存法の要件適用) |
※簡易帳簿:白色申告や小規模事業者が簡易な記帳方法を使う場合
保存期間の誤解が多いポイント
1. 領収書・請求書は個人も7年保存が原則
「個人事業主は5年でいい」と思われがちですが、青色申告の場合は7年保存が基本です。
簡易帳簿のみのケースや期限後申告など一部例外のみ5年になります。
2. 法人は会社法の方が長い
税法では7年ですが、会社法で10年保存が必要な書類があります。
実務上は法人はすべて10年保存とする方が安全です。
3. 電子取引は紙印刷では不十分
電子取引(メールやクラウドサービス経由の請求書・領収書)は、紙印刷しても電子データ保存義務は消えません。
電子帳簿保存法の要件を満たしたうえで、データ保存する必要があります。
ケース別の保存期間の考え方
ケース1:個人事業主(青色申告)
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保存期間:7年(簡易帳簿は5年)
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実務上はすべて7年保存が安全
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電子取引は電子で7年間保存(要件遵守)
ケース2:法人(株式会社・合同会社)
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保存期間:会社法10年/税法7年
→ 実務上は10年保存 -
電子取引データも同様に10年保存
ケース3:電子保存主体の事業者
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保存期間は紙と同じ
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電子帳簿保存法の検索要件や改ざん防止措置必須
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税務調査での提示に備え、バックアップも必須
帳簿保存を怠った場合のリスク
帳簿や証憑書類を法律で定められた期間保存しない場合、次のような不利益やペナルティが発生します。
1. 青色申告特別控除の取消
青色申告者は、帳簿書類の適正な保存が条件です。
これを満たさない場合、青色申告の承認が取り消され、最大65万円の特別控除が受けられなくなります。
2. 推計課税による追徴
帳簿が不十分な場合、税務署は推計課税(実際の帳簿ではなく推測で課税額を決定)を行います。
これにより、本来より高額な税金を課されるケースがあります。
3. 過少申告加算税・重加算税
保存義務を怠ることで、申告漏れや過少申告が発覚した場合、**追加の加算税(10〜40%)**や延滞税が課される可能性があります。
4. 電子帳簿保存法違反の罰則
電子取引データを保存していない場合、青色申告特典が外れるほか、重加算税の対象になることもあります。
税務調査での指摘例
税務調査では、帳簿保存の不備が高確率でチェックされます。実際の指摘事例を紹介します。
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領収書が紛失 → 仕入や経費が否認され、所得が増加
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電子請求書を紙だけで保存 → 電子保存義務違反で青色特典取消
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契約書の保存不足 → 取引の実在性を否定され、売上や仕入の修正
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総勘定元帳の一部欠落 → 推計課税による多額の追徴
リスク回避のポイント
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紙と電子の両方で管理
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電子データはクラウドと外部ストレージにバックアップ
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紙はスキャンして電子化し、原本も保存
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保存期間を統一
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個人も法人も、実務上はすべて10年保存を基準にすると安心
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電子帳簿保存法の要件順守
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検索機能(取引日・金額・取引先で検索可能)
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改ざん防止(タイムスタンプ、事務処理規程など)
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定期的な内部監査
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半年〜1年ごとに、書類の欠落や保存期間をチェック
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保存期間遵守のための実務チェックリスト
年度末や決算前に、次のチェックリストを活用すると帳簿保存の漏れを防げます。
チェック項目 | 内容 | 対応状況 |
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保存期間一覧の掲示 | 事務所や共有フォルダに一覧表を常備 | ☐ 完了 |
年度別フォルダ分け | 紙書類・電子データを年度ごとに整理 | ☐ 完了 |
電子データの検索機能 | 金額・日付・取引先で検索可能か確認 | ☐ 完了 |
バックアップ体制 | クラウド+外付けHDDの二重保存 | ☐ 完了 |
事務処理規程の整備 | 電子帳簿保存法に対応した社内ルール | ☐ 完了 |
廃棄ルール | 保存期間終了後の廃棄手順を明確化 | ☐ 完了 |
税務調査対応訓練 | 保存資料の提示方法を事前確認 | ☐ 完了 |
帳簿保存を効率化するツールとサービス
1. クラウド会計ソフト
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freee会計 / マネーフォワードクラウド / 弥生会計オンライン
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自動仕訳・領収書スキャン・電子取引データ保存に対応
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電子帳簿保存法の要件を満たす機能あり
2. 文書管理クラウド
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Google Drive / Dropbox / Box
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フォルダ構造を「年度→取引種類→日付」で統一
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外出先や税務調査時にもすぐにアクセス可能
3. タイムスタンプ・改ざん防止サービス
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Adobe Acrobat電子署名 / GMOサイン
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電子データに付与することで改ざん防止と法的証拠力確保
4. 自動バックアップツール
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Backblaze / Acronis True Image
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保存期間中のデータ消失リスクを低減
導入後の運用ポイント
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社内周知と教育
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保存ルールをマニュアル化
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新入社員や経理担当者への研修を年1回実施
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年1回の保存期間棚卸
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廃棄時期が来た資料は、適正手順で廃棄
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廃棄証明(廃棄リストや業者証明)を残す
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法改正チェック
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電子帳簿保存法や税法改正に対応するため、毎年税理士や公認会計士に相談
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まとめ
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帳簿保存期間は、法人・個人・電子取引で異なるが、実務上はすべて10年保存を基準にすると安心。
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電子帳簿保存法の要件遵守が必須であり、違反すると青色申告特典の取消や罰則の可能性あり。
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保存体制の整備は、クラウド会計ソフト+文書管理システム+バックアップの3本柱で行うと効率的。
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定期的な社内チェックと法改正対応が、税務調査リスクの低減につながる。