「全部事業で使った」は通用しない時代に
個人事業主やフリーランス、中小企業の経営者にとって、
事業とプライベートのお金の線引きは避けて通れないテーマです。
例えばこんなケース、思い当たりませんか?
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事業用のクレカでプライベートの買い物をしてしまった
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家賃・通信費・電気代などを「全部経費」で処理している
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プライベート用の銀行口座と事業口座を分けていない
こうした“お金の混在”は、税務調査のリスクを高めるだけでなく、節税のチャンスも逃してしまう原因となります。
なぜ「分けない経理」が問題になるのか?
税務署が問題視するのは、ズバリ「事業用経費の水増し」や「所得の過小申告」です。
よくある指摘内容は以下のとおりです。
よくある誤解 | なぜダメなのか? |
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自宅家賃は全額経費にしてOK | → 生活部分との区別が不明確で否認リスクあり |
家族との食事を接待交際費にした | → 私的支出は経費にならない(家事関連費) |
生活費を事業用口座から引き出している | → 資金の流れが不透明になりやすい |
特に2025年現在、電子帳簿保存法対応・インボイス制度の導入もあり、帳簿の透明性と信頼性がより強く求められています。
「お金の流れを分けて、プライベート支出は正しく仕訳」が基本ルール
個人事業主・法人経営者ともに、次の2点を徹底することで、経理の透明性と税務リスクの回避が可能になります。
基本方針
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個人と事業のお金は「物理的に分ける」
→ 事業専用の銀行口座・クレジットカードを用意 -
プライベート支出は「事業と関連があるか」で経費化判断する
→ 明らかに私的な支出は「事業主貸・事業主借」で仕訳処理
用語解説(簡単)
勘定科目 | 使い方の概要 |
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事業主貸 | 事業のお金を私用に使ったときに使う(事業→個人へ) |
事業主借 | 個人のお金を事業に使ったときに使う(個人→事業へ) |
「お金の混在」がもたらす3つのリスクと損失
① 税務調査で否認されやすくなる
プライベートな支出が経費として混ざっていると、税務署は「経費の信頼性が低い」と判断します。
その結果、次のようなリスクが生じます。
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一部の経費が「家事費」として否認される
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青色申告の特典(65万円控除など)が取り消される
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数年分まとめて追徴課税される
② 経費の把握が不正確になり、利益や節税に影響する
事業に関係ない支出まで経費に混在していると、本来の利益が把握できません。
利益が大きく見えすぎて、節税対策を打つタイミングを逃すケースもあります。
逆に、経費を過剰に計上して「赤字」と判断すると、金融機関の信用に悪影響を与えるリスクも。
③ 資金繰りの見通しが立たなくなる
個人支出が混じると、月末に現金が足りない、税金の支払いができないといった資金繰りの混乱を引き起こします。
経理の本来の目的は「経営の判断に役立てること」。
そのためにも、お金の流れは明確にしておく必要があります。
よくある「プライベート支出」の仕訳処理と注意点
実務で混同しやすい支出を中心に、どう仕訳するのが正しいのかをケース別に見ていきましょう。
ケース1:自宅家賃の一部を経費にしたい
誤)家賃すべてを「地代家賃」として計上
→ 家事按分(例えば30%)して「事業主貸」で処理
処理方法 | 勘定科目 | 金額(例) | 備考 |
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経費になる分 | 地代家賃 | 30,000円 | 家賃100,000円×30% |
経費にならない分 | 事業主貸 | 70,000円 | プライベート部分 |
ケース2:家族との食事代を会議費で落とした
誤)「会議費」として全額処理
→ 税務署に否認される可能性大
正)「事業主貸」で処理(私的支出)
ケース3:事業用クレジットカードでプライベートの買い物をした
処理方法:
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事業と無関係な買い物分は「事業主貸」で仕訳
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会計ソフト上では、摘要欄に「プライベート支出」と明記すると安心
ケース4:個人用口座から事業で使う備品を買った
仕訳例:
勘定科目 | 金額(例) | 内容 |
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消耗品費 | 5,000円 | USBメモリ・文具など |
事業主借 | 5,000円 | 個人のお金→事業に充当した |
個人と事業のお金を分けるためにやるべき7つの実践ステップ
以下に、今すぐできる会計管理の改善ステップを具体的にまとめました。
ステップ①:事業専用の銀行口座を開設する
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屋号付きの口座がベスト(例:加藤匡博/マネーサポートパートナーズ)
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入金(売上)も、支払い(経費)も事業口座だけを使用
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プライベートの生活費などを引き出すときは「事業主貸」で処理
ステップ②:事業専用のクレジットカードを用意する
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通信費、消耗品費、交通費などはすべて事業用カードで支払う
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プライベートの買い物には絶対使わないルールを徹底
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利用明細と会計ソフトを自動連携すれば、記帳の効率も大幅UP
ステップ③:現金支出はレシートをすぐ保管する習慣をつける
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レシートは「事業用」と「私用」に分けて保管
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レシート画像はスキャンまたはスマホ撮影し、クラウドで保存
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電子帳簿保存法対応アプリ(例:freee、マネーフォワードなど)を活用
ステップ④:家事按分ルールを作成しておく
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自宅の家賃・電気代・通信費などは事業利用割合を明記したメモを残す
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根拠として「使用面積」「使用時間」「通信用途(PC・スマホ)」を明記
費用科目 | 按分例(目安) | 根拠例 |
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家賃 | 30% | ワンルームの作業スペース割合など |
電気代 | 25% | 日中の作業時間など |
通信費 | 50% | 仕事用メールや請求書送付 |
ステップ⑤:freeeやマネーフォワードを活用する
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家事按分や勘定科目の自動判定機能が便利
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スマホアプリでレシート撮影→自動読み取りでスピーディに記帳
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銀行口座・クレカとの連携でミスや記帳漏れを防止
ステップ⑥:毎月1回、経理の「振り返り日」を設ける
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支出の中にプライベートなものが混在していないか確認
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必要に応じて仕訳の修正や補足メモを追加
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月末締め→翌月第1週までに記帳完了を目指す
ステップ⑦:税理士と相談しながら運用ルールを固める
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「これって経費にしても大丈夫?」と思ったら、早めに税理士に確認
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税務調査での指摘例なども共有してもらうと、実務の判断力が上がる
事業と個人の「線引き」ができる人は強い
経費処理や仕訳で悩むことがあっても、正しいルールに基づいて管理すれば税務上のリスクは大幅に減ります。
お金の線引きがしっかりできていれば、記帳も楽になり、経営判断もしやすくなる。
これは、売上を伸ばすのと同じくらい重要な経営スキルです。