キャッシュレス時代の経理の必須知識
近年、クレジットカードは事業経費の支払い手段として広く利用されています。現金払いよりもポイント還元や支払猶予があるため、資金繰りにも有効です。
しかし、クレジットカード決済は現金払いとは異なり、利用日と引き落とし日がずれるため、経理処理(仕訳方法)も独自のルールが必要になります。
特に、個人カードと法人カードの使い分けは、経費計上や証憑管理、税務調査対応において重要なポイントです。
仕訳を誤ると、経費が否認されるリスクや帳簿の信頼性低下につながります。
誤った仕訳が招くリスク
クレジットカード利用時の仕訳を正しく行わないと、次のような問題が発生します。
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経費計上時期のずれ
利用日ではなく引き落とし日で計上してしまい、決算期の損益がズレる。 -
個人カードと法人カードの区別ミス
個人カードで事業経費を支払った場合の立替処理をせず、資産・負債の計上が不適切になる。 -
証憑不足による経費否認
利用明細や領収書が不足し、税務調査で経費性を証明できなくなる。 -
消費税の仕入税額控除が受けられない
領収書や請求書に必要事項(インボイス要件)が欠けている場合、消費税控除不可となる。
こうしたミスは、帳簿の整合性を損ない、税務上の不利益だけでなく、資金管理や経営判断の精度も下げてしまいます。
正しい仕訳のポイントは「利用日基準」と「カード種別管理」
クレジットカード利用時の仕訳で押さえるべき基本は、以下の2点です。
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利用日基準での経費計上
クレジットカードは後払いですが、会計上は「サービスや商品を利用・購入した日」に経費を計上します。
これにより、期間損益が正確になり、決算書の信頼性が高まります。 -
カード種別による仕訳方法の区別
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法人カード:会社の負債として「未払金」や「未払費用」で処理
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個人カード(事業用):事業主や役員が立替えた扱いで「事業主借」または「役員借入金」で処理
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これらを明確に区別し、利用明細と領収書をセットで保存することで、経費の正当性を証明できます。
クレジットカード仕訳の正確さが重要な3つの背景
1. 会計原則に基づく「発生主義」の考え方
企業会計や青色申告の記帳では、原則として発生主義を採用します。
発生主義とは、「取引が発生した時点で収益や費用を計上する」というルールです。
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現金主義:お金が動いた時点で記録する(例:現金出納帳)
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発生主義:商品やサービスを受け取った日(利用日)で記録する
クレジットカード決済は利用日と引き落とし日が異なるため、利用日に仕訳することで、期間損益が正確になるのです。
2. 個人カード利用は「立替金」処理が必要
個人カードで事業経費を支払った場合、経理上は次のように考えます。
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事業主や役員が一時的に事業の支払いを立て替えた
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事業はその立替分を後日返済する義務がある
このため、「事業主借」や「役員借入金」勘定で負債として記録します。
これを行わずにいきなり経費計上すると、資金の流れが不明確になり、税務調査で否認される可能性があります。
3. 消費税の仕入税額控除の適用要件
消費税の仕入税額控除を受けるには、インボイス制度の要件を満たした請求書や領収書を保存する必要があります。
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領収書に登録番号(13桁)が記載されているか
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税率ごとの消費税額が明記されているか
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取引日(利用日)が正しく記載されているか
クレジットカード明細だけでは要件を満たさない場合があり、必ず領収書を併せて保管する必要があります。
4. 資金繰り管理と会計の一致
法人カードの場合、利用から引き落としまで1〜2か月の猶予があります。
発生主義で仕訳を行い、未払金残高を正しく管理することで、将来の資金流出を予測できます。
法人カードと個人カードの仕訳方法
1. 法人カード利用時の仕訳
法人カードで経費を支払った場合は、会社の負債として処理します。
事例
1月15日に法人カードで10,000円の消耗品を購入(消費税1,000円含む)、2月10日に銀行口座から引き落とし。
仕訳例
(利用日:1月15日)
(引き落とし日:2月10日)
ポイント
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利用日に「未払金」で計上する
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引き落とし日に未払金を消す
2. 個人カード利用時の仕訳(個人事業主)
個人カードを使って事業経費を支払った場合は「事業主借」で処理します。
事例
1月20日に個人カードで5,500円の事務用品を購入(消費税500円含む)、3月5日に個人カード引き落とし。
仕訳例
(利用日:1月20日)
(個人事業主の場合、引き落としは個人資金の動きなので帳簿に記録不要)
3. 個人カード利用時の仕訳(法人の役員)
法人の役員が個人カードで立替払いした場合は「役員借入金」で処理します。
事例
1月25日に役員が個人カードで接待交際費22,000円(消費税2,000円含む)を支払った。
仕訳例
(利用日:1月25日)
(後日会社が役員に返金する場合)
4. 利用日基準と引き落とし日基準の比較
| 項目 | 利用日基準 | 引き落とし日基準 |
|---|---|---|
| 会計原則との一致 | ◎(発生主義に合致) | ×(現金主義) |
| 期間損益の正確性 | 高い | 低い(期ズレ発生) |
| 資金繰り予測 | 可能(未払金管理) | 難しい |
| 税務調査対応 | 有利(取引時点明確) | 不利(証憑不足の恐れ) |
5. 経費精算フロー(法人の場合)
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社員や役員が法人カードまたは個人カードで経費支払い
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利用日基準で経費仕訳
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利用明細と領収書を経理部門に提出
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法人カードは引き落とし日に未払金を消す
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個人カードは立替分を返金処理
クレジットカード仕訳を正確に行うためのステップ
ステップ1:カード種別の整理
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法人カード・個人カードを明確に区別する
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個人事業主は「事業用」と「私用」のカードを分けると効率的
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法人は役員や社員の個人カード利用を原則禁止、やむを得ない場合は精算ルールを明文化
ステップ2:利用日基準での記帳ルールを徹底
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利用明細に記載された利用日で経費計上する
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会計ソフトで「利用日入力」に対応した仕訳ルールを設定
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引き落とし日に未払金・役員借入金を精算する
ステップ3:証憑のセット保管
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領収書(インボイス対応)とカード利用明細をセットで保管
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領収書に登録番号・税率・消費税額が記載されているか確認
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電子帳簿保存法に対応した形式で保管(検索可能な状態)
ステップ4:会計ソフトの活用
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freee・マネーフォワード・弥生などのカード連携機能を活用
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カード明細取り込み+自動仕訳設定で入力ミス防止
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勘定科目と税区分の自動判定機能を利用
ステップ5:定期的なチェック体制
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毎月末に未払金残高とカード明細を突合
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個人カード利用分は精算漏れがないか確認
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領収書の欠落や記載不備を月次で修正
クレジットカード仕訳ミス防止チェックリスト
| 項目 | 確認 |
|---|---|
| 法人カード・個人カードを区別しているか | □ |
| 利用日基準で経費計上しているか | □ |
| 領収書とカード明細をセットで保管しているか | □ |
| 領収書がインボイス要件を満たしているか | □ |
| 引き落とし日に未払金や役員借入金を精算しているか | □ |
| 会計ソフトのカード連携設定を活用しているか | □ |
まとめ
クレジットカードの経理処理は、利用日基準での記帳とカード種別ごとの仕訳ルールを守ることが肝心です。
法人カードは未払金処理、個人カードは立替金処理とし、領収書と明細を必ずセットで保存しましょう。
会計ソフトや電子帳簿保存法対応の管理方法を取り入れれば、効率化と税務リスク回避の両立が可能です。

