経営判断はスピードが命
月次決算とは、1か月ごとに行う決算処理のことです。
年次決算の簡易版として、月ごとの損益や財務状況を素早く把握するための重要な経理作業です。
特に中小企業や個人事業主では、売上や利益の変動が大きく、資金繰りや経営判断に直結します。
しかし、実務では「締め作業が遅れる」「正確な数字が出ない」といった課題が多く、せっかくの月次決算が形だけの資料になってしまうことも少なくありません。
この記事では、スピードと精度を両立した月次決算の基本手順を、初心者でも理解できるように解説します。
月次決算が遅れると起きる3つの弊害
月次決算を実施していても、処理が遅かったり数字が不正確だったりすると、次のような問題が発生します。
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経営判断の遅れ
数字が出るのが翌月末や翌々月では、すでに状況が変わっており、対策が後手に回る。 -
資金ショートの見逃し
現金残高や支払予定の把握が遅れ、資金繰りのトラブルが発生。 -
予算管理の精度低下
実績と予算の差異分析が遅れ、計画の修正が遅延。 -
税務・申告準備の後倒し
月次処理が遅れると、年次決算や申告準備も逼迫する。
スピード経理の鍵は「手順の標準化」と「リアルタイム記帳」
月次決算を効率化し、正確かつ迅速に数字を出すためには、次の2つのポイントが重要です。
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手順の標準化
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毎月同じスケジュールと流れで決算作業を行う
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担当者ごとの業務分担を明確化する
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必要な書類・データを事前にリスト化
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リアルタイム記帳の徹底
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取引発生後すぐに会計ソフトへ入力
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銀行明細・クレジットカード明細の自動連携を活用
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レシートや請求書は電子保存で即処理可能にする
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この2つを組み合わせることで、月次決算は翌月5営業日以内の早期化も可能になります。
月次決算のスピードが経営を左右する3つの視点
1. 財務面:資金繰りの予測精度が上がる
月次決算を迅速に行うと、現金残高や入出金予定が早期に把握でき、資金ショートのリスクを未然に防げます。
資金繰り表と連動させれば、今後の資金不足や余剰資金の発生時期を予測でき、次のような判断が可能になります。
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借入や返済のタイミング調整
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設備投資の実施判断
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税金や社会保険料の納付資金の確保
遅い月次決算 → 資金不足に気づくのが遅れる → 高金利の短期借入に頼るといった悪循環を防ぐためにも、早期化は不可欠です。
2. 税務面:適切な節税対策が可能になる
月次決算のデータは、年間の利益見込みの精度を高める材料になります。
利益予測が早期に分かれば、決算直前の駆け込みではなく、計画的な節税対策が可能です。
例:
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利益が想定より多い → 固定資産の購入や修繕費計上を前倒し
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利益が少ない → 節税よりも利益確保策に集中
また、消費税や源泉所得税などの納税予測にも役立ち、税務資金の確保がスムーズになります。
3. 経営戦略面:迅速な意思決定ができる
競争環境が変化する中で、数字をもとにした経営判断のスピードは競争力に直結します。
月次決算が早ければ、次のような行動が可能です。
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売上が急減した場合、即座に販促や営業施策を打つ
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原価率や経費率の異常値を早期に発見し、改善策を実行
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予算との差異を毎月把握し、柔軟に計画修正
逆に、月次決算が遅れると「気づいた時には手遅れ」という状況になりがちです。
4. 年次決算の効率化にも直結
月次で正確な数字を締めていれば、年次決算時の残高確認や修正作業が大幅に減ります。
決算直前の慌ただしい修正や税理士とのやり取りが減り、決算申告までの期間短縮にもつながります。
月次決算の進め方と手順
1. 月次決算の基本フロー
月次決算は、大きく次の5ステップで進めます。
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取引データの収集
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請求書、領収書、納品書、契約書などを集める
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クレジットカード明細・銀行明細を取得
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電子取引データは電子帳簿保存法対応で保存
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仕訳入力・自動連携
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会計ソフトに取引を入力(自動連携を活用)
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勘定科目や税区分を正しく設定
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残高の照合
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銀行残高、売掛金・買掛金残高、現金残高を帳簿と突合
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不一致があれば原因を特定して修正
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月次試算表の作成
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損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)を作成
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数字の異常値や前年同月との比較を行う
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報告・分析
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経営者・役員・部門責任者に報告
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数字をもとに翌月の行動計画を策定
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2. 月次決算スケジュール例(翌月5営業日以内)
| 日付 | 作業内容 |
|---|---|
| 月末 | 取引締め(売上・経費) |
| 翌月1〜2日 | 証憑・明細データ回収、仕訳入力 |
| 翌月3日 | 残高照合(銀行・売掛・買掛) |
| 翌月4日 | 試算表作成・分析 |
| 翌月5日 | 経営者報告・承認 |
3. スピード経理のための工夫
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銀行明細・クレカ明細の自動連携を会計ソフトで設定
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レシートはスマホアプリで撮影し、即日入力
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支払・入金予定をクラウド型資金繰り管理表で可視化
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固定資産や毎月発生する経費は仕訳テンプレート化
4. 月次決算チェックリスト
| 項目 | 確認 |
|---|---|
| 全ての取引データを回収したか | □ |
| 銀行残高と帳簿残高が一致しているか | □ |
| 売掛金・買掛金の残高が正しいか | □ |
| 消費税・源泉税の計上漏れがないか | □ |
| 固定資産・減価償却の計上を行ったか | □ |
| 異常値(経費増減、売上急変)の原因を分析したか | □ |
月次決算を早く・正確に進めるための改善ステップ
ステップ1:業務フローを標準化する
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月末〜翌月決算までの作業手順をマニュアル化
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作業の順序、担当者、期限を明確にする
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曖昧な業務を減らし、誰でも同じ品質で処理できる体制を作る
ステップ2:データ収集を自動化
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会計ソフトに銀行・クレジットカードを連携
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請求書発行・受領をクラウド化して自動仕訳
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領収書・レシートはスマホ撮影で即アップロード
ステップ3:証憑管理の電子化
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紙のやり取りを最小化し、電子データで一元管理
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電子帳簿保存法対応システムを導入し、検索可能な状態に保つ
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フォルダ階層やファイル名のルールを決め、誰でも探せる状態にする
ステップ4:月次決算の前倒しスケジュール化
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取引先や社内に請求書・領収書提出期限を周知
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経費精算は月末前に締め切る運用に変更
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翌月5営業日以内の報告を目標に進捗管理
ステップ5:分析と改善のループ
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毎月の月次決算後に「作業時間」「ミス件数」を記録
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遅延やミスの原因を分析し、翌月の業務に反映
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経営会議で数字の意味や改善点を共有し、単なる報告で終わらせない
月次決算スピード化チェックリスト
| 項目 | 確認 |
|---|---|
| 業務マニュアルが整備されているか | □ |
| 会計ソフトの自動連携を活用しているか | □ |
| 証憑は電子化し、検索可能な状態か | □ |
| 月末前に経費精算・請求書提出を締めているか | □ |
| 翌月5営業日以内の試算表作成ができているか | □ |
| 毎月の改善点を次月に反映しているか | □ |
まとめ
月次決算は、経営判断のスピードと精度を高めるための重要な業務です。
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手順の標準化
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リアルタイム記帳
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データの自動化・電子化
を徹底することで、翌月早期の数字確定と的確な経営判断が可能になります。
一度仕組みを整えれば、年次決算や税務申告の負担も軽減でき、経理の質が大幅に向上します。

