個人事業主や社長一人でも意外と関係する「給与」と「源泉徴収」
「従業員がいないから給与計算なんて無縁」と思っていませんか?
実は、個人事業主や社長一人の会社でも、役員報酬や外部への報酬支払いによって、給与計算や源泉徴収の義務が発生することがあります。特に報酬や謝礼、講演料、原稿料などを支払う際には、税務署に納める源泉所得税が関係します。
この記事では、従業員がいない場合でも押さえておくべき給与計算・源泉徴収の基礎知識を、初心者でもわかるように解説します。
知らずに放置すると「延滞税」や「加算税」の対象に
給与計算や源泉徴収は、雇用契約を結んだ従業員だけに限らず、次のようなケースでも必要になります。
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役員報酬を支払っている(社長自身への支払いも含む)
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外部のフリーランスに原稿料・デザイン料などを支払う
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講師や専門家に謝礼を支払う
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税理士・司法書士など士業に報酬を支払う
これらを「給与や報酬に関する支払い」として処理しないと、税務署からの指摘で未納税額+延滞税+加算税が発生する可能性があります。特に源泉所得税は支払いの翌月10日までに納付するルールがあるため、知識不足による遅延は命取りになりかねません。
従業員がいなくても「給与計算」と「源泉徴収」は必要になる
結論から言えば、「従業員がいない=給与計算が不要」ではないということです。
会社や事業主が支払うお金のうち、所得税法で「給与」や「報酬・料金」に該当するものは、必ず源泉徴収の対象になります。
つまり、以下のような流れは一人会社やフリーランスでも避けて通れない場合があります。
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支払い金額を計算(給与や報酬額)
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源泉所得税額を控除(国税庁の計算表に基づく)
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控除後の金額を支払う
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翌月10日までに源泉所得税を納付
給与計算=従業員の給料だけ、という誤解をなくし、正しく会計処理と納付を行うことが重要です。
源泉徴収は「支払い相手の立場」ではなく「支払い内容」で決まる
給与計算や源泉徴収の要否は、雇用契約の有無ではなく、支払いの性質によって決まります。
所得税法では、次のような支払いは、従業員でなくても源泉徴収の対象と定められています。
1. 役員報酬(社長・役員自身への支払いも含む)
法人の場合、社長や取締役は「役員」としての立場で報酬を受け取ります。
この役員報酬は、給与所得として扱われ、支払い時に源泉徴収が必要です。
特に一人社長の会社でも、会社から社長への役員報酬は源泉徴収義務があります。
例:
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月額役員報酬 300,000円
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源泉所得税は給与所得の源泉徴収税額表に基づき計算し、差し引いて支給
2. 専門家・士業への報酬や料金
税理士、司法書士、社会保険労務士、弁護士などに支払う報酬も源泉徴収の対象です。
これらは「報酬・料金」として**支払額の10.21%(復興特別所得税含む)**を源泉徴収します。
例:
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税理士報酬 100,000円 → 源泉税 10,210円控除 → 実支払額 89,790円
3. 講演料や原稿料
外部の専門家、ライター、講師などに支払う謝礼や原稿料も源泉徴収の対象です。
源泉徴収率は基本的に10.21%ですが、1回の支払額が100万円を超える場合は計算式が異なります。
4. 芸能関係・デザイン制作・フリーランス報酬
モデル出演料や撮影料、デザイン制作料なども、源泉徴収対象となるケースが多いです。
特にフリーランスに業務委託で支払う場合、「報酬・料金」の範囲に入るかどうかを事前確認する必要があります。
法律上の根拠
源泉徴収の対象は所得税法第183条〜第204条に規定されています。
支払者は源泉徴収義務者となり、控除した税金を国に納付しなければなりません。
納付期限は原則として翌月10日ですが、納期の特例を申請すれば年2回にまとめて納付も可能です(従業員数が少ない場合など)。
なぜ「従業員がいなくても」必要なのか?
要するに、支払いの相手が従業員か外注かは関係なく、
「支払い内容が源泉徴収対象に該当するかどうか」で判断するためです。
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従業員給与 → 源泉徴収対象
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役員報酬 → 源泉徴収対象
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士業報酬 → 源泉徴収対象
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講演料・原稿料 → 源泉徴収対象
このルールを知らずに「従業員いないから関係ない」と放置すると、後から税務署の指摘を受けてまとめて支払う羽目になることがあります。
支払いパターン別の仕訳と計算方法
1. 一人社長の役員報酬
法人の社長は、自分に支払う役員報酬についても給与計算を行い、源泉所得税を控除する必要があります。
例:
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月額役員報酬:300,000円
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社会保険料控除:45,000円
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源泉所得税(給与所得の源泉徴収税額表「甲欄」に基づく):4,360円
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実支給額:300,000円 − 45,000円 − 4,360円 = 250,640円
仕訳例:
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
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役員報酬 | 300,000円 | 預り金(社会保険料) | 45,000円 |
預り金(源泉所得税) | 4,360円 | ||
普通預金 | 250,640円 |
2. 税理士や司法書士への報酬
外部の士業に業務を依頼した場合、報酬額の10.21%を源泉徴収します。
例:
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報酬額:100,000円
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源泉税:100,000円 × 10.21% = 10,210円
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実支給額:89,790円
仕訳例:
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
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支払報酬 | 100,000円 | 預り金(源泉所得税) | 10,210円 |
普通預金 | 89,790円 |
3. 講演料・原稿料の支払い
専門家やライターに原稿料を支払う場合も同様に源泉徴収します。
例:
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原稿料:50,000円
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源泉税:50,000円 × 10.21% = 5,105円
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実支給額:44,895円
仕訳例:
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払原稿料 | 50,000円 | 預り金(源泉所得税) | 5,105円 |
普通預金 | 44,895円 |
4. フリーランスへの業務委託
デザイン制作や動画編集などを外注する場合、業務内容によっては源泉徴収が必要です(広告・印刷物の単純制作は対象外の場合あり)。
例:
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デザイン制作費:80,000円
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源泉税:80,000円 × 10.21% = 8,168円
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実支給額:71,832円
仕訳例:
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
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外注費 | 80,000円 | 預り金(源泉所得税) | 8,168円 |
普通預金 | 71,832円 |
納付方法
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納付期限
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原則:支払月の翌月10日まで
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納期の特例適用時:年2回(1〜6月分を7月10日まで、7〜12月分を翌年1月20日まで)
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納付方法
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税務署窓口
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金融機関窓口
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e-Tax(インターネット納税)
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ダイレクト納付やインターネットバンキングも可
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納付書の記入例
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税目番号「101」(給与・役員報酬等)
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金額は合計額を記入
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源泉徴収義務者の氏名・所在地を記入
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従業員ゼロでも必要な給与計算・源泉徴収対応ステップ
ステップ1:源泉徴収義務者としての登録を確認する
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法人は設立時点で自動的に源泉徴収義務者になります。
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個人事業主は「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署に提出すると義務が発生します。
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登録漏れがあると納期の特例の申請や納付ができないため、開業時・法人成立時に必ず確認しましょう。
ステップ2:支払い対象の取引を洗い出す
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毎月の支払いの中で源泉徴収の対象となるものを把握します。
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役員報酬
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士業報酬(税理士・弁護士・司法書士など)
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講演料・原稿料
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外注費(デザイン・広告原稿など一部業務)
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対象外と思い込んで支払ってしまうと、後から追徴課税になるケースもあるため、契約前に確認を。
ステップ3:給与計算・源泉税計算を正しく行う
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役員報酬や給与は**国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表」**を使用して計算。
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報酬・料金については**定率10.21%(復興特別所得税を含む)**で計算。
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月ごとに源泉徴収税額の台帳を作成して、支払日・金額・源泉額を記録しておくと、納付漏れ防止になります。
ステップ4:納期の特例を活用する
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毎月納付が負担であれば「納期の特例の承認に関する申請書」を提出。
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承認されると年2回の納付で済み、事務負担が大幅に軽減。
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ただし、納付忘れは延滞税や不納付加算税の対象になるため、納付期限を必ずカレンダーや会計ソフトで管理しましょう。
ステップ5:e-Taxや会計ソフトで自動化
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freee、マネーフォワード、弥生などのクラウド会計ソフトは、給与計算から源泉徴収税額の算出、e-Tax連携まで対応可能。
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紙の納付書作成や窓口持参の手間を減らし、計算ミスや記入ミスも防止できます。
ステップ6:記録と保存を徹底する
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源泉徴収した証拠(給与明細・請求書・契約書)は7年間保存が必要。
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納付書の控えやe-Taxの受信通知も必ず保存し、税務調査時に提出できるようにします。
まとめ
従業員がいなくても、法人や一部の個人事業主は源泉徴収義務から逃れられません。
特に役員報酬や外注報酬は対象になるケースが多く、計算・納付のミスはペナルティに直結します。
会計ソフトや納期特例を活用し、「毎回計算 → 記録 → 納付」を仕組み化することが、ミス防止と事務負担軽減の鍵です。