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ひとり会社の役員報酬はいくらに設定すべきか?シミュレーション付き

役員報酬は会社の資金計画を左右する重要な要素

ひとり会社(1人社長)の場合、役員報酬は単なる「社長の給料」ではなく、会社の利益・税金・社会保険料・資金繰りに直結する経営戦略の要です。
設定金額を間違えると、

  • 会社の資金が急速に減る

  • 税金・社会保険料の負担が予想以上に増える

  • 将来の資金計画が狂う
    といった問題が発生します。

一方で、役員報酬の設定を適切に行えば、

  • 会社・個人の税負担をバランスよく軽減

  • 社会保険料の無駄を抑制

  • 事業投資や生活資金の安定化
    が可能になります。

今回は、役員報酬の適正額を考えるための基礎知識と計算の考え方、実際のシミュレーション例までをわかりやすく解説します。


なぜ役員報酬の金額設定は難しいのか?

役員報酬額の設定は一度決めると、原則として会計年度の途中で変更できません。
そのため、決定時点で以下の要素をすべて考慮する必要があります。

1. 法人税・所得税・住民税のバランス

  • 法人税は会社の利益に対して課税

  • 所得税・住民税は役員報酬額に応じて課税

  • どちらか一方の税金だけを減らすと、もう一方が増える可能性あり

2. 社会保険料の負担

  • 健康保険・厚生年金は役員報酬額を基準に計算

  • 報酬を高くしすぎると毎月の保険料負担が大きくなる

  • 報酬を低くしすぎると将来の年金額が減る可能性あり

3. 会社の資金繰り

  • 高すぎる報酬 → 会社に残るお金が少なくなり運転資金不足

  • 低すぎる報酬 → 個人の生活費が不足し、私生活が不安定化

4. 節税だけを目的にすると失敗する

  • 一時的な節税だけで判断すると、翌年以降の資金計画が崩れる

  • 社会保険料の増加や資金不足のリスクを見落としがち


役員報酬は「会社・個人の手取り最大化」を基準に設定すべき

適正な役員報酬の考え方は、
**「会社と個人を合わせた手取りが最大になる金額」**を目指すことです。

具体的には以下のステップで判断します。

  1. 会社の年間利益見込みを算出(経費計上後)

  2. 法人税・所得税・社会保険料を総合的に試算

  3. 個人の生活費・貯蓄目標に必要な金額を確認

  4. 上記を踏まえた最適バランスを探る

この「最適バランス」は業種や会社の規模、家族構成によっても異なります。
次章では、その理由を税務・社会保険・資金繰りの観点から詳しく見ていきます。

役員報酬が税金・社会保険・資金繰りに与える影響

1. 法人税と所得税の関係

役員報酬は、会社の経費として計上できるため、支払額を増やせば会社の利益が減り、法人税が減少します。
しかし、その分、個人の所得が増えるため、所得税や住民税の負担が増加します。

例:年間利益1,000万円の会社の場合(概算)

役員報酬(年額) 法人税(約23.2%) 所得税・住民税(累進) 会社+個人合計税負担
600万円 約93万円 約140万円 約233万円
900万円 約23万円 約250万円 約273万円

※あくまで概算。扶養控除や経費計上額により変動。

→ 報酬を上げすぎると、法人税は減るものの個人課税が大きくなり、トータルの負担は増える可能性があります。


2. 社会保険料への影響

社会保険料は、役員報酬額を基準に健康保険・厚生年金を計算します。報酬が高くなればその分保険料も増えます。

東京都の協会けんぽ+厚生年金の例(2025年)

役員報酬(月額) 社会保険料(会社負担+個人負担)
30万円 約9.6万円/月(年間約115万円)
50万円 約16万円/月(年間約192万円)

→ 保険料は会社と個人が折半するため、会社の負担増=資金繰りにも影響。


3. 資金繰りの安定性

役員報酬は、会社からの現金流出です。
報酬を多く設定すると、会社に残るお金が減り、以下のようなリスクが高まります。

  • 取引先への支払遅延

  • 設備投資や新規事業資金の不足

  • 銀行融資の信用低下

逆に、報酬を低く設定しすぎると、社長の生活資金が不足し、個人のクレジットカード払いや住宅ローン返済が困難になる場合があります。


4. 税金・保険料・資金の「総合最適化」が必要

役員報酬の金額は、法人税・所得税・社会保険料・資金繰りが相互に関係するため、一つの視点だけで決めると失敗します。

  • 法人税だけを減らす目的で報酬を増やす → 個人税・保険料増加

  • 社会保険料を減らすために報酬を下げる → 法人税増加、年金額減少

  • 生活費を優先して高報酬設定 → 会社資金不足

→ このため、**「会社と個人の手取り合計額が最大になるライン」**を見極めることが重要です。

役員報酬額別シミュレーション

ここでは、年商3,000万円、経費(役員報酬除く)1,500万円のひとり会社を想定し、役員報酬を3パターンで比較します。
法人税率は23.2%、所得税は累進課税(復興税含む)、住民税は一律10%、社会保険料は東京都協会けんぽ+厚生年金の標準報酬月額表に基づく概算です。

※実際の金額は各種控除・扶養状況・業種により変動します。本表はあくまで参考シミュレーションです。

項目 報酬600万円/年(50万円/月) 報酬900万円/年(75万円/月) 報酬1,200万円/年(100万円/月)
法人利益(役員報酬控除後) 900万円 600万円 300万円
法人税(約23.2%) 約209万円 約139万円 約69万円
個人課税所得(基礎控除等後) 約520万円 約800万円 約1,100万円
所得税+住民税 約148万円 約268万円 約418万円
社会保険料(会社+個人合計) 約192万円 約288万円 約384万円
合計税・保険料負担 約549万円 約695万円 約871万円
会社+個人の手取り合計 約1,251万円 約1,105万円 約929万円

分析

  • 報酬600万円:
    手取り合計は最大。法人税は高めだが、個人課税と保険料が抑えられる。

  • 報酬900万円:
    法人税が減る一方、個人税・保険料が増え、手取りは減少。

  • 報酬1,200万円:
    個人課税と保険料が大きく増加し、手取りは最も少なくなる。


ポイント

  • ひとり会社の場合、「法人税を減らす=手取り最大化」ではない。

  • 報酬は会社と個人の総額手取りベースで最適化する必要がある。

  • 社会保険料は報酬に比例して増えるため、生活費に余裕があっても報酬を高くしすぎると損になる可能性が高い。

役員報酬の適正額を決める5ステップ

ステップ1:生活費の必要額を算出する

  • 家計の月間支出(住宅費、食費、教育費、保険料、娯楽費など)を洗い出す

  • 年間で必要な生活費(貯蓄・投資を含む)を計算

  • 役員報酬はこの生活費をまかなえる水準を下回らないように設定する

ポイント
生活費が月40万円なら、年間必要額は480万円。この金額を最低ラインとして報酬を検討。


ステップ2:法人の年間利益計画を立てる

  • 売上・固定費・変動費を見積もり、役員報酬を支払った後の利益を試算

  • 法人の利益が少なすぎると銀行融資や信用力に影響する

  • 将来の投資や内部留保に必要な資金も加味する


年間売上3,000万円・経費(報酬除く)1,500万円の場合、
役員報酬を800万円に設定すると利益は700万円程度となる。


ステップ3:税金・社会保険料を試算する

  • freeeやマネーフォワードのシミュレーション機能を活用

  • 法人税・所得税・住民税・社会保険料をトータルで計算

  • 「法人+個人の手取り合計」を基準に比較

注意
報酬を高くして法人税を減らしても、個人税や保険料が増えれば手取りが減ることが多い。


ステップ4:複数パターンを比較して最適化

  • 報酬額を年600万円・800万円・1,000万円など複数設定して試算

  • 会社と個人の総手取り額を比較

  • 必要生活費を満たしつつ、総手取りが最大になる額を選択


ステップ5:決定後は毎月同額で固定する

  • 税務上、役員報酬は原則「期首3か月以内」に決定し、期中変更不可

  • 一度決めた額は毎月同額を支給し、臨時ボーナスは出せない(例外除く)

  • 翌期に見直すサイクルを確立する


最適額は「生活費+法人の成長資金」を意識

ひとり会社の役員報酬は、高すぎても低すぎても損をします。
法人税・個人税・社会保険料のバランスを見ながら、
「生活費をカバーしつつ法人の資金繰りを安定させる額」が適正額です。

freeeやマネーフォワードなどの会計ソフト、または税理士とのシミュレーションを活用すれば、
毎年の見直しもスムーズに行えます。

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