法人化は“タイミング”が命
「そろそろ法人化したほうがいいのでは…?」
個人事業主として事業を継続していると、一度はこの疑問が頭をよぎります。
しかし、法人化は単に“会社を作る”だけではなく、税金や社会保険、経営戦略にも大きな影響を与える重要な判断です。
2025年現在、税制や社会保険のルールは以前より複雑化しており、「売上や利益がいくらになったら法人化すべきか」 という基準も昔と比べて変わってきています。
この記事では、法人化のベストタイミングを「売上」「利益」「節税効果」の3つの観点から解説し、具体的な判断基準を提示します。
タイミングを間違えると損をする理由
法人化は“早すぎても遅すぎても損”をする可能性があります。
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早すぎる場合のリスク
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設立費用や毎年の維持コストが負担になる
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社会保険の強制加入で手取りが減る
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売上が少ないうちは節税効果が小さい
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遅すぎる場合のリスク
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個人事業の高い所得税率で税負担が増える(最高45%)
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所得分散や役員報酬による節税チャンスを逃す
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大口取引や融資で信用面が不利になる
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つまり、法人化は「メリットがコストを上回るタイミング」で行うことが最重要です。
法人化判断の3つの軸
法人化の適切な判断には、以下の3つの指標を総合的に考える必要があります。
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売上規模
→ 一般的に年商1,000〜2,000万円を超えると法人化を検討 -
利益水準
→ 課税所得が500〜800万円を超えると税率差でメリットが出やすい -
節税・事業戦略
→ 役員報酬、経費計上範囲、退職金制度などの節税策が有効になるか
これらを踏まえて、次の章で法人化のメリット・デメリットを整理し、最適なタイミングを見極める基礎を作ります。
理由①:税率構造の違いによる節税効果
法人化の最大の魅力は「税率の低減」です。
所得税と法人税の比較(2025年現在)
区分 | 個人事業主(所得税+住民税) | 法人(法人税+地方法人税+住民税+事業税) |
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〜195万円 | 約15% | 約23.2%(最低税率) |
330万円超〜695万円以下 | 約30% | 約23.2%(中小企業軽減税率15%適用) |
900万円超 | 約43% | 約30.86% |
1,800万円超 | 約55% | 約30.86% |
※個人事業主は累進課税のため、利益が増えるほど税率が上がります。
※法人は利益800万円以下部分に軽減税率15%(中小企業)を適用可能。
📌 ポイント:
利益が500〜800万円を超えると、個人事業の高い税率より法人の方が有利になるケースが多くなります。
理由②:社会保険制度の影響
法人になると、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)の加入が義務化されます。
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個人事業主:国民健康保険+国民年金(保険料は所得に応じ変動)
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法人:健康保険+厚生年金(保険料は役員報酬に応じて決定、会社と個人で折半)
社会保険のメリット
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将来の年金額が国民年金より高くなる
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健康保険の傷病手当金や出産手当金が使える
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家族を扶養に入れることで保険料負担軽減も可能
社会保険のデメリット
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保険料負担が増えるケースが多い(特に報酬が高い場合)
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役員報酬を抑えても最低等級の保険料がかかる
📌 ポイント:
節税効果だけでなく、社会保険負担を含めた総合的な試算が必要。
具体例①:法人化のメリット・デメリット比較
項目 | メリット | デメリット |
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税金 | ・累進課税から固定税率へ移行し、高所得時に有利 ・役員報酬や退職金制度で節税可能 |
・赤字でも最低7万円程度の法人住民税がかかる |
社会保険 | ・厚生年金で将来の受給額が増える ・扶養制度で家族の保険料を軽減可能 |
・保険料負担が増加する場合あり |
経営・信用 | ・取引先や金融機関からの信用度アップ ・資金調達がしやすくなる |
・決算書の作成や公開義務で事務負担増 |
経費計上範囲 | ・生命保険や出張費など経費にできる範囲が広がる | ・交際費など一部に制限(中小企業は年800万円まで) |
事業継承・売却 | ・株式譲渡でスムーズに事業承継可能 | ・設立・登記費用が必要(合同会社6万円〜、株式会社10万円〜) |
📌 まとめ
法人化のメリットは節税だけでなく、信用力や経営戦略の幅が広がる点にあります。
一方で、固定費や事務負担が増えるため、売上や利益の規模を見極める必要があります。
具体例②:売上・利益別の法人化判断基準(2025年版)
以下は、2025年現在の税制・社会保険ルールを踏まえた法人化の目安です。
年間売上 | 年間利益 | 法人化検討度 | コメント |
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〜1,000万円未満 | 〜300万円 | ★☆☆ | 消費税免税事業者のメリットを活かしつつ、個人事業で十分 |
1,000〜2,000万円 | 300〜500万円 | ★★☆ | 社会保険負担と比較しつつ、今後の成長見込みで判断 |
2,000〜3,000万円 | 500〜800万円 | ★★★ | 税率差による節税メリットが出やすく、法人化有力候補 |
3,000万円以上 | 800万円以上 | ★★★★ | 法人化メリット大、節税と信用力向上の両方を狙える |
※利益は経費計上後の課税所得ベースで計算。
具体例③:節税効果のシミュレーション
(ケース:年間利益800万円)
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個人事業主の場合
所得税・住民税:約260万円(税率約32%) -
法人化した場合
法人税・住民税・事業税:約170万円(税率約21%)
+役員報酬による所得税・住民税:約50万円
→ 年間約40万円の節税効果(社会保険増加分を除く)
📌 ポイント
法人化後の実質的な節税額は、社会保険料の増加分を差し引いて計算する必要があります。
行動①:法人化前に試算すべき項目
法人化を検討する場合、まず以下の3点を試算してみましょう。
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税負担の比較試算
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個人事業主のままの場合と法人化した場合での所得税・法人税額の差
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社会保険料の試算
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役員報酬額ごとの健康保険・厚生年金保険料
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維持コストの確認
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登記費用、顧問税理士費用、決算申告費用など
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この3つを数値化することで、法人化によるメリット・デメリットを“見える化”できます。
行動②:法人化の手続きと必要書類
法人化を決めたら、以下の流れで進めます。
※ここでは株式会社設立を例に説明します(合同会社は一部手続きが異なります)。
1. 事業計画・資本金の決定
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法人の目的(事業内容)を明確にする
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資本金額を決める(最低1円でも可能だが、信用面では100万円以上がおすすめ)
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発行可能株式数や役員構成も検討
2. 定款の作成・認証
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会社の基本ルール(定款)を作成
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株式会社の場合は公証役場で認証(手数料約5万円+印紙代4万円(電子定款なら不要))
3. 資本金の払込み
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代表者の個人口座に資本金を入金し、払込証明書を作成
4. 登記申請
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法務局にて会社設立登記を申請
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登記免許税(資本金の0.7%、最低15万円)を納付
5. 設立後の税務署・役所手続き
提出先 | 提出書類 | 提出期限 |
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税務署 | 法人設立届出書 | 設立日から2か月以内 |
税務署 | 青色申告の承認申請書 | 設立から3か月以内または事業年度開始日から3か月以内 |
税務署 | 給与支払事務所等の開設届出書 | 給与支払開始日から1か月以内 |
都道府県税事務所 | 法人設立届出書 | 設立から15日〜2か月以内(自治体により異なる) |
市区町村役場 | 法人設立届出書 | 同上 |
6. 社会保険・労働保険手続き
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年金事務所:健康保険・厚生年金保険 新規適用届
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労働基準監督署:労災保険関係成立届
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ハローワーク:雇用保険適用事業所設置届
行動③:法人化後にすべき運営体制の整備
法人化後は、以下のような運営体制の整備が必要です。
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会計処理体制:会計ソフト導入、仕訳ルール統一
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税務顧問契約:法人税申告や決算対策のための顧問税理士選定
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資金繰り管理:資金繰り表の作成、銀行との関係構築
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社内ルール:経費精算規程や就業規則の整備(従業員がいる場合)
まとめ&判断チェックリスト
法人化の判断に迷ったときは、以下のチェックリストを使いましょう。
✅ 年間利益が500万円以上ある
✅ 今後2〜3年で売上がさらに伸びる見込みがある
✅ 社会保険料増加分を負担できる資金力がある
✅ 取引先や金融機関からの信用力向上が必要
✅ 将来的に事業承継や売却を考えている
✅ 法人の維持コスト(税理士費用・登記費用)を負担できる
3つ以上当てはまれば、法人化を積極的に検討する段階
特に利益が800万円を超える場合は、節税効果が顕著になりやすいため、法人化のタイミングとして有力です。