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法人保険と倒産防止共済はどちらを優先すべき?税理士の視点で比較

中小企業経営者や個人事業主にとって、事業資金の安定確保と節税は重要なテーマです。その中でよく名前が挙がるのが「法人保険」と「倒産防止共済(経営セーフティ共済)」です。
どちらも節税や資金確保に役立つ制度ですが、仕組みや目的は異なります。

しかし、実務の現場では「どちらを先に導入すべきか?」という相談を多く受けます。資金繰りや事業の将来設計に影響するため、安易に選択すると後悔することもあります。
本記事では、税理士の視点から両者を徹底比較し、優先すべき選び方を解説します。


間違った優先順位が招くリスク

「節税になるから」と勧められるままに法人保険に加入し、数年後に解約して多額の解約返戻金を受け取った結果、一気に課税されて資金繰りが悪化する…
一方、倒産防止共済に資金を積み立ててきたが、事業規模拡大に必要な保障が得られず、急なリスクに備えられなかった…
こうした事例は珍しくありません。

両者は「節税」という表面的な効果は似ていますが、

  • 保険:万一の保障+資金準備

  • 共済:取引先倒産時の資金確保+一時的な資金繰り
    と役割が異なります。
    誤った順序で導入すると、節税どころかキャッシュフローを圧迫する可能性もあるのです。


原則は倒産防止共済を優先、ただし例外もあり

結論から言えば、多くの中小企業においては倒産防止共済を優先する方が合理的です。理由は以下の通りです。

  1. 掛金の全額が損金算入でき、即効性のある節税効果がある

  2. 解約返戻金が100%に近く、元本割れリスクが低い

  3. 必要に応じて貸付制度を利用でき、資金繰りの安全網となる

ただし、例外もあります。

  • 大きな死亡保障や役員退職金の原資を準備したい場合

  • 長期的な資産形成を重視する場合
    このようなケースでは法人保険を先に検討する価値があります。


理由①:資金流動性の高さ

倒産防止共済の大きな魅力は、掛金を解約すればほぼ全額が戻る点です。
法人保険は解約返戻率が契約初期は低く、資金が固定化されます。
この違いは、経営の柔軟性に直結します。

項目 倒産防止共済 法人保険
掛金控除 全額損金算入 一部損金算入(契約形態による)
元本割れ 原則なし(掛金総額の範囲で) 契約初期は大幅に元本割れ
貸付制度 あり(掛金の95%まで) なし(契約者貸付は一部商品で可能)
流動性 高い 低い(長期固定)

資金流動性が高いほど、景気変動や緊急支出に対応しやすくなります。


理由②:即効性のある節税効果

倒産防止共済は掛金月額5,000円〜20万円の範囲で設定でき、年間最大240万円まで全額損金に算入可能です。
法人保険の場合、契約形態によって損金算入割合が異なり、全額を経費にできるケースは限られます。

特に中小企業にとっては、「払った掛金がそのまま経費になる」シンプルさが魅力で、決算直前の節税対策にも即応可能です。

理由③:リスク対応力の違い

法人保険と倒産防止共済は、備えるリスクの種類が根本的に異なります。

  • 倒産防止共済
    主に「取引先の倒産リスク」や「一時的な資金ショート」への備え。
    掛金の範囲で無担保・無保証人で資金を借りられるため、突発的な売掛金回収不能にも対応できます。

  • 法人保険
    主に「死亡・病気・退職金原資」など、経営者や役員に関するリスクへの備え。
    万一の際にまとまった保険金を受け取れますが、掛金は保険料として消費され、流動性は低めです。

重要なのは、経営リスクの優先順位です。
例えば、業種的に取引先倒産リスクが高い場合は共済を優先すべきですし、経営者が高齢で退職金準備を急ぐ場合は法人保険の重要度が増します。


具体例①:製造業のケース

取引先数社から売掛金を回収している製造業A社は、過去に大口取引先が倒産し、3,000万円の売掛金が回収不能になった経験があります。
その後、倒産防止共済に加入し、掛金を積み立てることで、万一の際にすぐ資金を確保できる体制を構築しました。
結果として、キャッシュフローの安全性が大きく向上しました。


具体例②:役員退職金を準備したいケース

IT業B社の社長(60歳)は、5年後に引退を予定しています。
そのため、まずは法人保険(長期平準定期保険)で退職金原資を積み立て、解約返戻金を受け取る計画を立てました。
ただし、同時に倒産防止共済にも加入し、資金繰りの安全網を確保しています。
両者を併用することで、短期と長期のリスク両方に対応できています。


導入順序の判断基準

経営者が迷ったときは、以下のステップで優先順位を決めると良いでしょう。

  1. 現在の資金繰り状況を把握

    • 現預金残高、売掛・買掛のバランス、借入金の返済状況を確認

  2. リスクの種類を整理

    • 取引先倒産リスクが高いか?

    • 経営者の退職時期が近いか?

  3. 掛金負担能力を試算

    • 倒産防止共済:最大月20万円

    • 法人保険:契約内容によっては高額負担になることも

  4. 税務上の効果とキャッシュフローを比較

    • 即効性重視なら共済

    • 長期的節税と資産形成なら保険


まとめ

  • 倒産防止共済は流動性が高く、短期的な資金リスクに強い

  • 法人保険は長期的な保障や資産形成に向く

  • 優先順位は「資金繰り安全網 → 長期保障」の順が基本

  • 双方の特性を理解し、併用戦略も視野に入れる

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