事業者の資金備えと節税の二刀流
事業を営む個人事業主や中小企業経営者にとって、
「将来の資金備え」と「節税対策」は常に頭を悩ませるテーマです。
日本には、事業者向けの資金準備と節税を同時に叶える制度として
小規模企業共済と**倒産防止共済(経営セーフティ共済)**の2つが存在します。
どちらも国が運営(中小機構)しており、掛金が全額所得控除または損金算入できるため、節税効果が非常に高い制度です。
しかし、その目的や使い方、メリット・デメリットには大きな違いがあります。
本記事では、2025年最新の税制や制度内容をもとに、
小規模企業共済と倒産防止共済の違いと活用法を、比較表や事例を交えてわかりやすく解説します。
間違った選択は資金繰り悪化の原因に
共済制度は「節税できるからとりあえず加入」という姿勢で選んでしまうと、
実際に必要な時に使えない、あるいは資金繰りを悪化させるリスクがあります。
例えば…
-
老後資金を準備するつもりで倒産防止共済に加入してしまい、引き出せない状態に陥る
-
取引先倒産リスクへの備えが必要だったのに、小規模企業共済にしか加入していなかった
-
解約時の税負担を考慮せず、節税どころか税金が増えてしまった
こうした失敗は、制度の目的や条件を十分に理解していないことが原因です。
そこで次章からは、両制度の概要と違いを整理していきます。
目的別に選ぶのが最も効果的
小規模企業共済と倒産防止共済は、
目的の異なる制度であり、以下のように使い分けるのが最適です。
-
小規模企業共済 … 廃業や引退後の生活資金・退職金準備に適している
-
倒産防止共済 … 取引先倒産リスクに備える運転資金確保に適している
さらに資金繰りと節税効果を最大化するには、
両方に加入して役割を分ける戦略も有効です。
理由①:制度の目的と仕組みが根本的に違う
小規模企業共済の概要
-
運営:中小企業基盤整備機構(中小機構)
-
目的:小規模事業者や個人事業主の廃業・引退時の生活資金確保
-
掛金:月額1,000円〜70,000円(500円単位で変更可)
-
税制優遇:掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除
-
受取方法:一括受取・分割受取(年金形式)など
-
加入対象:
-
常時使用する従業員数が20人以下(商業・サービス業は5人以下)の法人役員
-
個人事業主(事業専従者も可)
-
倒産防止共済(経営セーフティ共済)の概要
-
運営:中小機構
-
目的:取引先企業の倒産時に、無担保・無利子で運転資金を借りられる
-
掛金:月額5,000円〜200,000円(5,000円単位)、上限800万円
-
税制優遇:掛金は全額「損金算入」または「必要経費算入」可能
-
受取方法:取引先倒産時の貸付金(掛金の10倍、上限8,000万円)
-
加入対象:
-
1年以上継続して事業を行っている中小企業者
-
特定業種の中小企業組合など
-
理由②:節税効果の現れ方が異なる
小規模企業共済の節税効果
掛金全額が所得控除となるため、所得税と住民税の負担を軽減します。
例)課税所得500万円、掛金月額7万円の場合
年間掛金:84万円
→ 所得税率20%、住民税率10%なら 約25万円の節税効果
倒産防止共済の節税効果
掛金全額が損金算入できるため、法人税や個人事業税の負担を軽減します。
例)法人課税所得1,000万円、掛金月額20万円の場合
年間掛金:240万円
→ 法人税率23.2%なら 約55万円の節税効果
※倒産防止共済は解約時に全額益金(課税対象)となるため、引き出し方に注意が必要です。
理由③:資金化の条件とリスクの違い
小規模企業共済の資金化条件
-
原則として廃業・退職時に受け取れる制度
-
任意解約は可能だが、掛金納付期間が20年未満だと元本割れのリスクあり
-
急な資金需要には向かない
-
受取時は「退職所得」または「公的年金等控除」の対象となり、税負担は軽くなる
注意点
加入後すぐの解約は大きな損失になるため、長期的な資金準備目的で利用すべき。
倒産防止共済の資金化条件
-
取引先の倒産時には、掛金の10倍(上限8,000万円)まで無利子・無担保で借り入れ可能
-
解約すれば掛金総額を受け取れるが、全額が課税対象(益金)となる
-
資金繰りが悪化した際に解約資金として使えるが、解約のタイミングによっては税負担増
注意点
短期的な節税効果を狙って高額掛金を設定すると、解約時に一気に課税されるリスクがある。
具体例①:老後資金を確保したい場合
Aさん(個人事業主)
-
年齢:45歳
-
課税所得:600万円
-
老後資金として20年間積み立てたい
→ 小規模企業共済が適している
月額7万円の掛金を20年積立で1,680万円
掛金全額が所得控除になり、毎年約30万円の節税効果
退職所得控除の適用で、受取時の税負担もほぼゼロ
具体例②:取引先倒産に備えたい場合
B社(法人)
-
売上依存度の高い主要取引先が1社
-
年間課税所得:1,200万円
→ 倒産防止共済が適している
月額20万円掛金を3年で720万円積立
取引先が万が一倒産した場合、掛金の10倍=7,200万円まで無利子融資
掛金全額が損金算入され、毎年約170万円の法人税節税
具体例③:節税と資金備えの両立
C社(法人)
-
年間課税所得:800万円
-
将来の役員退職金と運転資金の両方を準備したい
→ 小規模企業共済(月5万円)+倒産防止共済(月10万円)の併用
-
年間掛金合計180万円
-
小規模企業共済分は役員個人の所得控除、倒産防止共済分は法人の損金算入
-
節税効果は合計で約60万円
-
長期的な退職金準備と短期的な資金繰りリスク対策を同時に実現
小規模企業共済と倒産防止共済の比較表
項目 | 小規模企業共済 | 倒産防止共済 |
---|---|---|
運営 | 中小機構 | 中小機構 |
目的 | 廃業・引退後の生活資金・退職金準備 | 取引先倒産リスクへの備え |
掛金 | 月1,000円〜7万円 | 月5,000円〜20万円 |
税制優遇 | 全額所得控除 | 全額損金算入 |
資金化条件 | 廃業・退職時(任意解約可だが元本割れリスクあり) | 取引先倒産時(解約で全額課税) |
受取時課税 | 退職所得または公的年金控除 | 解約時に全額課税 |
節税効果のタイミング | 掛金支払時・受取時(軽減あり) | 掛金支払時のみ |
最大積立額 | 掛金上限70,000円×加入期間 | 800万円 |
加入前チェックリストと活用ステップ
加入前チェックリスト
加入を検討する前に、以下の項目を確認しましょう。
-
資金の目的は明確か
老後資金か、倒産リスクへの備えか、それとも両方か。 -
掛金を無理なく続けられるか
共済は中長期の継続加入が前提。資金繰りを圧迫しない金額設定が重要。 -
解約時の税負担を理解しているか
倒産防止共済は解約時課税、小規模企業共済は退職所得課税が基本。 -
制度の併用が有効か
単独加入より、両方を組み合わせた方がリスク分散になる場合も多い。
活用ステップ
-
目的の明確化
例:役員退職金を準備する/取引先依存リスクを減らす。 -
掛金額の設定
税負担軽減と資金繰りのバランスを見ながら金額を決定。 -
申込書類の準備と提出
銀行や商工会議所を通じて申請可能。 -
定期的な見直し
業績や資金需要の変化に応じて掛金を増減。 -
解約・資金化のタイミングを戦略的に決定
特に倒産防止共済は解約時の課税負担を事前に試算することが重要。
まとめと注意点
小規模企業共済と倒産防止共済は、いずれも中小企業・個人事業主にとって強力な節税と資金備えの手段ですが、目的・資金化条件・課税タイミングが大きく異なります。
-
長期的な資金形成=小規模企業共済
-
短期的な資金繰り対策=倒産防止共済
-
両方のニーズがある場合は併用が最適
注意点
-
共済掛金は事業経費や所得控除になるが、将来の受取時課税も考慮する必要あり
-
倒産防止共済は短期間での解約による課税増加リスクが高い
-
制度改正の影響を受けるため、最新情報を確認することが重要