経営者の退職金制度と節税を両立できる仕組み
事業を営む個人事業主や中小企業経営者は、会社員と異なり退職金制度がありません。将来のための資金を計画的に貯めながら、同時に節税もできる制度があれば魅力的です。
小規模企業共済は、まさにこの要望を満たす制度であり、掛金が全額所得控除の対象となるため、毎年の税負担を軽くしながら将来資金を積み立てられます。
節税メリットを活かせていない経営者が多い現実
一方で、この制度を知らなかったり、加入しても掛金設定を最適化していない経営者も多くいます。特に、以下のようなケースが目立ちます。
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掛金を少額にしており、節税効果を十分に発揮できていない
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解約時の税務上の取扱いを理解せず、思ったより手取りが少なかった
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そもそも「経費になる」と誤解し、仕訳処理を間違っている
こうした認識不足は、将来の資金計画にも税務戦略にも影響を及ぼします。
小規模企業共済は長期的視点での節税+資金準備が可能
結論から言えば、小規模企業共済は「今」と「将来」の両方に効果がある数少ない制度です。
2025年現在の税制では、掛金が全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除できるため、課税所得を減らし、所得税と住民税の負担を軽減できます。
さらに、退職や廃業時には共済金として一括・分割で受け取ることができ、その受取方法によっては退職所得控除や公的年金等控除が適用され、税負担をさらに抑えることも可能です。
理由①:掛金の全額控除による即時の節税効果
小規模企業共済の大きな特徴は、掛金が全額所得控除の対象となることです。
例えば、月額5万円(年間60万円)を掛金として支払った場合、その60万円がまるごと所得控除されます。
節税額の目安(所得税率20%、住民税率10%の場合)
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所得税軽減額:60万円 × 20% = 12万円
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住民税軽減額:60万円 × 10% = 6万円
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合計節税額:年間 18万円
つまり、掛金を拠出するだけで即座に税金の支払いが減る計算です。
理由②:受取時の優遇課税
掛金拠出による節税効果だけでなく、将来受け取る際にも税制優遇があります。
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退職時一括受取:退職所得扱い(退職所得控除が大きく、課税が軽い)
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分割受取:公的年金等控除の対象(年金収入として課税されるが、控除額がある)
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併用受取:一部を一括、残りを年金として受け取る柔軟な選択肢
この二重の税制メリットにより、長期的に見ればかなり効率的な資金形成が可能です。
理由③:事業廃止・退職時の資金確保
個人事業主や一人社長の場合、廃業時や引退時にまとまった資金を確保する手段が限られています。
小規模企業共済は、廃業・退職など一定条件を満たせば共済金を受け取れるため、事業の清算資金や老後資金として活用できます。
✅ この後の続きでは、
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具体例(数値シミュレーション)
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デメリットや注意点
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掛金設定のコツ
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加入から受取までの流れチェックリスト
までをカバーします。
具体例①:節税額シミュレーション
ここでは、所得水準別に小規模企業共済の掛金による節税効果を試算します。(2025年現在の所得税率・住民税率を前提)
年間課税所得 | 掛金(月額) | 年間掛金 | 所得税率 | 住民税率 | 節税額(年間) |
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300万円 | 5万円 | 60万円 | 10% | 10% | 約12万円 |
600万円 | 5万円 | 60万円 | 20% | 10% | 約18万円 |
1,000万円 | 7万円 | 84万円 | 33% | 10% | 約36.12万円 |
※上記は概算であり、実際の節税額は所得控除や扶養状況によって変動します。
具体例②:受取時の税負担比較
共済金を一括受取と分割受取で比較した場合の税負担例(掛金総額1,000万円/加入20年/退職時受取)
受取方法 | 適用控除 | 課税方法 | 税負担目安 |
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一括受取 | 退職所得控除 800万円 | 退職所得課税(1/2課税) | 課税所得100万円程度 → 税額少 |
分割受取 | 公的年金等控除 年間110万円 | 雑所得課税 | 年金額が控除額を超えない場合ほぼ非課税 |
併用 | 上記の併用 | 退職+雑所得 | 税負担を分散でき有利 |
注意点①:途中解約の不利
掛金納付期間が20年未満で任意解約すると、元本割れすることがあります。短期的に利用する制度ではないため、長期積立を前提に加入する必要があります。
注意点②:資金拘束
掛金は原則として解約するまで引き出せないため、急な資金需要には対応できません。流動性の低さはデメリットの一つです。
注意点③:受取時の税制判定ミス
受取方法によって適用される控除が異なるため、誤った方法を選ぶと税負担が増えることもあります。必ず税理士やFPにシミュレーションしてもらうことをおすすめします。
掛金設定のコツ
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所得が高い年は掛金を増やす(月額1,000円〜7万円まで1,000円単位で変更可能)
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収入が減った年は掛金を減らす(無理なく継続することが重要)
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年末にまとめ払いも可能(所得の見込みに応じて調整)
行動編:加入から受取までのチェックリスト
加入前
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現在の所得額と税率を確認
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将来の廃業・退職時期を想定
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他の退職金制度や貯蓄方法との比較
加入時
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掛金額(月額1,000円〜7万円)を設定
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掛金引落口座の指定
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税務処理(小規模企業共済等掛金控除の適用)
加入後
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年末調整または確定申告で控除を反映
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所得状況に応じて掛金を変更
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制度改正の情報をチェック
受取時
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一括受取・分割受取・併用のどれが有利か試算
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控除額の確認(退職所得控除・公的年金等控除)
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税理士やFPへの相談
まとめ
小規模企業共済は、掛金が全額所得控除となるため、現役時代の節税と将来の資金準備を両立できる強力な制度です。ただし、資金拘束や解約条件、受取時の税制を理解していないとデメリットもあります。
重要なのは、長期的な資金計画の中で掛金を戦略的に設定し、受取方法まで見据えて活用することです。