節税だけを目的に利用するリスクとは
中小企業経営者や個人事業主の間で人気の高い制度の一つが「倒産防止共済(経営セーフティ共済)」です。
掛金が全額損金(経費)に算入できるため、「節税できる制度」として紹介されることが多いですが、実は節税目的だけで加入すると将来思わぬ負担や資金繰りリスクを招くことがあります。
本記事では、倒産防止共済の本来の趣旨や制度設計を踏まえ、「なぜ節税商品ではないのか?」を解説しつつ、正しい活用方法をご紹介します。
なぜ「節税商品」と誤解されやすいのか
1. 掛金が全額経費になるインパクト
倒産防止共済の掛金は、月額5,000円〜20万円の範囲で自由に設定でき、年間最大240万円まで損金算入できるという非常に大きなメリットがあります。
この「全額経費」という特徴が、保険や共済を節税手段として検討している経営者の目に留まりやすい理由です。
2. 金融機関や士業からの「節税提案」
決算間際に利益が出すぎた場合、金融機関の担当者や税理士から「掛金を増額して利益を圧縮しましょう」という提案を受けるケースも少なくありません。
こうした提案は短期的には節税効果がありますが、制度の仕組みや将来の課税リスクを十分理解せずに利用すると、「税金の繰延べ」なのか「恒久的な節税」なのかの違いを見誤る原因になります。
3. インターネットやSNSの情報の偏り
ネット記事やSNS投稿では、「今すぐできる節税対策」として倒産防止共済が紹介されることが多いですが、解約時の課税や資金拘束について触れない情報も多く、誤解が広がりやすい状況です。
倒産防止共済は「節税」よりも「資金リスク対策」が本質
倒産防止共済の本来の目的は、取引先の倒産による連鎖倒産を防ぎ、経営を安定させるための資金を確保することです。
確かに掛金を損金算入できるため、結果的に税金の負担を軽減できますが、これはあくまで「副次的な効果」にすぎません。
つまり、倒産防止共済は節税を目的とするものではなく、資金繰りの安全網として利用する制度です。
節税目的だけで利用すると、将来解約時に多額の課税が発生し、逆にキャッシュフローを圧迫するリスクがあります。
倒産防止共済の仕組みと課税のタイミング
1. 制度の概要
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正式名称:中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)
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運営主体:独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)
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加入資格:中小企業・個人事業主(業種別に従業員数や資本金の制限あり)
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掛金:月額5,000円〜20万円(500円単位)、累計800万円まで積立可能
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共済金の貸付:取引先が倒産した場合、掛金の10倍まで無担保・無保証で借入可能
2. 節税効果の正体は「課税の繰延べ」
倒産防止共済の掛金は、支払った年度の経費として全額損金算入できます。
そのため利益を圧縮でき、法人税や所得税、住民税の負担を減らせます。
しかし、解約時には受け取った共済金が全額益金(課税対象)になるため、最終的には税金を支払う必要があります。
これは「課税の繰延べ(税金の支払い時期を後ろにずらすこと)」であり、恒久的な節税ではありません。
3. 資金拘束のリスク
掛金は原則として40か月(3年4か月)未満では解約しても元本割れします。
また、必要になるまで資金を引き出せないため、急な事業資金の必要がある場合に対応できない可能性があります。
節税目的加入と資金繰り重視加入の違い
1. 節税目的だけで加入したケース
ケースA:利益圧縮目的で一括加入
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年末に利益が出すぎたため、経営者が年内に掛金240万円を一括払い。
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その年度は法人税等の負担が約72万円減少(実効税率30%の場合)。
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しかし5年後に全額解約し、240万円が益金計上され、税負担約72万円が発生。
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その年の資金繰りが苦しく、税金を払うために借入を行う事態に。
ポイント
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節税効果は一時的であり、解約時に「税の逆襲」がある。
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キャッシュフロー管理を誤ると資金ショートのリスク。
2. 資金リスク対策として加入したケース
ケースB:取引先依存度が高い業種
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売上の50%以上を1社に依存する製造業が加入。
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月額10万円を5年間掛け、累計600万円積立。
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主要取引先が倒産した際、掛金の10倍(6,000万円)まで貸付を受け、事業継続を確保。
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その後、業績が安定してから徐々に解約・課税対応。
ポイント
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倒産リスクに備えた資金調達の保険として機能。
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解約のタイミングを計画的に設定すれば、課税負担を分散できる。
3. 数値比較(シミュレーション)
項目 | 節税目的一括加入 | 資金リスク対策加入 |
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掛金支払 | 240万円(1年) | 600万円(5年) |
節税効果 | ▲72万円(1年目) | ▲180万円(5年間累計) |
解約益金 | +240万円(5年後) | 計画的分割解約 |
資金繰り効果 | 一時的改善 | 倒産時の大規模融資確保 |
リスク | 解約時の税負担集中 | 長期資金拘束 |
倒産防止共済を賢く活用するためのステップ
ステップ1:目的を明確にする
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節税>資金リスク対策 になっていないかを確認。
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売上依存度や業種特性を踏まえたリスク分析を行う。
ステップ2:掛金額と期間を計画する
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年間の利益見通しに合わせて無理のない掛金設定。
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40か月以上は継続できる額を設定(元本割れ防止)。
ステップ3:解約のタイミングを分散
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事業承継や引退時など、課税負担が少ない年に解約。
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数年に分けて段階的に解約し、税金の集中負担を避ける。
ステップ4:税務処理を正しく行う
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掛金は「租税公課」または「保険料」で処理(勘定科目は会計方針による)。
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解約返戻金は「雑収入」で益金計上。
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税務調査に備えて掛金払込証明書や契約書を保管。
まとめ
倒産防止共済は確かに短期的な節税効果がありますが、その本質は「取引先倒産時の資金繰り対策」です。
節税目的だけで加入すると将来の課税負担や資金拘束に苦しむ可能性があります。
加入を検討する際は、「いつ」「なぜ」「いくら」掛けるのかを明確にし、解約の計画まで含めた長期的な視点が不可欠です。