利益が出ていても資金が足りない?その原因は「キャッシュフロー」
「黒字なのに資金が足りない」――そんな経験はありませんか?
中小企業や個人事業主にとって、損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)は馴染みがあるかもしれませんが、**キャッシュフロー計算書(CF計算書)**はあまり意識されていないことが多いです。
しかし、キャッシュフロー計算書こそが「会社にお金が残っているかどうか」を示す、最も重要な指標です。この記事では、キャッシュフロー計算書の基本構造から経営判断への具体的な活かし方まで、2025年の最新会計トレンドも踏まえて、初心者向けにわかりやすく解説します。
キャッシュフローを見ない経営の落とし穴
利益=資金繰りの余裕、ではない!
多くの経営者は「黒字=安心」と考えがちですが、実際には利益と現金残高は一致しません。特に次のようなケースでは、「利益が出ているのに資金が回らない」状況が発生します。
状況 | 内容 |
---|---|
売掛金が増加 | 売上は立っているが、入金が遅れて資金が不足 |
過剰な在庫 | 仕入で現金が出ていくが、販売が遅れて回収できない |
借入返済が集中 | 利益が出ても、返済に現金が吸い取られる |
PLとBSだけでは判断できないことが多い
損益計算書(PL)は「期間中の利益」、貸借対照表(BS)は「一定時点の資産と負債の構成」を示します。一方、キャッシュフロー計算書は「お金がいつ、どこから入って、どこに出ていったか」を表すものです。
つまり、PLやBSでは把握しきれない「会社の健康状態」をCF計算書が補完しているのです。
キャッシュフロー計算書は経営判断の「羅針盤」
キャッシュフロー計算書を正しく読み解くことで、次のような経営判断が可能になります。
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このままの資金繰りで半年後も会社は回るか?
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投資をする余裕があるか?
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融資を受ける必要があるか?
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固定費を見直すタイミングか?
2025年以降の企業経営において、CF計算書は単なる会計帳票ではなく、「意思決定のためのツール」として活用されつつあります。特にクラウド会計ソフト(freee・マネーフォワードなど)によるリアルタイム財務分析との連携も容易になりつつあるため、経営者自身がキャッシュフローを読める力を持つことが強く求められています。
キャッシュフロー計算書が経営に不可欠な理由
キャッシュフローの3つの区分とは?
キャッシュフロー計算書は、以下の3つの活動ごとにお金の流れを分類します。
区分 | 内容 | 代表的な取引例 |
---|---|---|
営業活動によるCF | 本業で得た収支 | 売上入金、仕入支出、給与支払いなど |
投資活動によるCF | 設備・資産への投資 | 機械の購入、有価証券の取得など |
財務活動によるCF | 資金調達や返済 | 借入、返済、配当の支払いなど |
✅ ポイント:本業での資金が「営業CF」で黒字になっているかが最重要です。
PLとCFの違いを知る
観点 | 損益計算書(PL) | キャッシュフロー計算書(CF) |
---|---|---|
目的 | 利益の把握 | 資金繰りの把握 |
計上基準 | 発生主義(取引発生ベース) | 現金主義(入出金ベース) |
表示内容 | 売上・費用・利益 | 入金・出金・残高変動 |
経営判断 | 損益分析 | 資金繰り対策・投資判断 |
PLでは見えない「資金の流れ」をCF計算書が補うことで、経営者はより立体的な判断が可能になります。
キャッシュフロー計算書の読み方を実践的に理解しよう
ケース1:営業CFがマイナスの会社の危険信号
事例
東京都の製造業X社は、年商5,000万円・利益も黒字でしたが、営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)は2期連続でマイナスになっていました。
キャッシュフロー計算書(抜粋)
区分 | 金額(円) |
---|---|
営業CF | ▲2,000,000 |
投資CF | ▲1,500,000 |
財務CF | +4,000,000 |
解説
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本業(営業)での現金収支が赤字の状態が続いている
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設備投資(マイナス)を借入金でカバーしている
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一時的には成り立っているが、返済が始まると資金ショートの可能性が高い
改善ポイント
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売掛金の回収強化(入金サイト短縮)
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原価や固定費の見直しによる支出削減
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不要な投資の凍結
ケース2:営業CFがプラスで投資CFがマイナスの健全企業
事例
ITサービス業Y社は、売上が安定し、積極的な人材投資と設備更新を進めていました。
キャッシュフロー計算書(抜粋)
区分 | 金額(円) |
---|---|
営業CF | +3,200,000 |
投資CF | ▲1,800,000 |
財務CF | ▲500,000 |
解説
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本業がしっかり利益を生み、現金も増えている
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将来の成長を見越した投資が行われている
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借入を減らしており、経営体質が強化されている
評価
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営業CFの黒字が継続しているかが好業績の指標
-
余剰資金を投資に活用しているため、長期的な視点で見ると好材料
ケース3:財務CFが大きくマイナス=借入返済の影響
事例
サービス業Z社は、過去に借り入れた資金の返済が集中し、財務CFが急減。営業利益はプラスだが、現金残高が減少傾向に。
キャッシュフロー計算書(抜粋)
区分 | 金額(円) |
---|---|
営業CF | +1,000,000 |
投資CF | 0 |
財務CF | ▲3,000,000 |
解説
-
本業での利益はあるが、返済による資金流出が多く、現金が減り続けている
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借換えや返済スケジュールの再調整が急務
初心者がつまずきやすいポイント
よくある誤解 | 正しい理解 |
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PLが黒字なら資金も余っている | PLとCFは別物。現金残高はCFで判断する |
借入金が多いから安心 | 借入は一時的。営業CFで黒字でないと危険 |
キャッシュフローは経理に任せればよい | 経営判断に直結するため、経営者こそ理解すべき |
キャッシュフローを経営に活かすためにやるべきこと
キャッシュフロー計算書を読み解けるようになったら、次は実際に経営判断や業務にどう活かすかが重要です。ここでは、すぐに始められるアクションを5つのステップに整理して解説します。
ステップ1:月次でキャッシュフローを把握する習慣をつける
✅ ポイント:経営者が数字の動きを「自分の言葉」で語れる状態が理想です。
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月次で試算表とあわせてキャッシュフロー計算書を作成
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営業・投資・財務の3区分をチェック
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前月比・前年同月比で増減理由を確認
フォーマット例(営業CFパート)
内容 | 金額(円) | 増減理由 |
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売上入金 | 1,800,000 | 請求書の送付タイミング改善 |
仕入支出 | ▲1,000,000 | 仕入先と支払サイト交渉 |
給与支払い | ▲500,000 | 人員増加により増加 |
小計(営業CF) | +300,000 | 収支改善方向に推移中 |
ステップ2:キャッシュフローに基づいて経営判断を行う
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営業CFがマイナスなら「コスト削減」または「売上増」施策を検討
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投資CFが大きくマイナスでも、営業CFが黒字ならOK
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財務CFがマイナスで現金残高も減少中 → 借換や資金調達の検討を
✅ キャッシュフローの「質」を見極める力が経営の差になります。
ステップ3:freeeやマネーフォワード等で自動集計&見える化
2025年現在、主要なクラウド会計ソフトでは、キャッシュフロー計算書の自動作成やグラフ表示機能があります。
初心者に特におすすめなのは以下の2社です。
会計ソフト | 特徴 | 月額費用(目安) |
---|---|---|
freee | 見やすいUIと自動連携機能が優秀 | 2,178円~ |
マネーフォワードクラウド | 分析機能と細かいレポートが強い | 2,980円~ |
ステップ4:資金繰り表と連携させて未来を読む
キャッシュフロー計算書は「過去の実績」。一方で「資金繰り表」は未来の資金状況の予測ツールです。
両者を連携させることで、
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今後6か月の資金残高の推移予測
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資金ショート時期の予防策立案
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設備投資や採用の判断材料
など、実務に役立つ経営の武器になります。
ステップ5:専門家と定期的にキャッシュフローを確認する
税理士や経理代行業者との月次面談時に、キャッシュフローについても説明を受けましょう。
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試算表の説明だけでなく「現金の流れ」も含めて確認
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異常値があればすぐに相談
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目標キャッシュポジションの維持を習慣化
キャッシュフローが読めれば経営に自信が持てる
キャッシュフロー計算書は難解な帳票に見えがちですが、慣れれば経営の羅針盤として非常に有効です。
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「利益が出ているのに資金がない」状態の原因を特定できる
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投資判断・借入判断・事業成長のタイミングが見える
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社内外との信頼関係構築にもつながる(金融機関・投資家・税理士)
中小企業や個人事業主こそ、キャッシュフローを味方につけるべきです。