利益が出ているのに資金が尽きる「資金ショート」の怖さ
中小企業や個人事業主の経営において、黒字にもかかわらず突然資金が底をつく「資金ショート」は珍しくありません。
帳簿上は利益が出ているのに、実際の現金残高が不足し、支払いや仕入れができなくなるケースです。
特に2025年現在、物価高や金利上昇、取引条件の変化などで、資金繰りの難易度は年々高まっています。
資金ショートの原因はさまざまですが、多くの場合、「支出の管理不足」が根底にあります。
中でも固定費と変動費のコントロールを適切に行うことが、資金ショートを防ぐ最大の武器になります。
なぜ固定費と変動費を把握できていない経営者が多いのか?
経営者と話をしていると、「毎月の家賃や人件費は把握しているけれど、細かい経費はなんとなく支払っている」という声をよく聞きます。
また、「変動費は売上に応じて変動するからコントロールできない」と思い込んでいる方も多いです。
しかし、支出を固定費と変動費に分け、それぞれの特徴を理解すれば、資金繰りの改善余地が見えてきます。
現場でよく見られる支出管理の失敗例は以下の通りです。
失敗例 | 内容 |
---|---|
固定費の見直しを長期間行っていない | 家賃、リース料、保険料などが契約当初のまま |
変動費が売上と比例していない | 売上減少時にも変動費が下がらない |
繰延支払条件の悪化 | 仕入先や外注先への支払サイトが短くなり、キャッシュ負担増 |
成長期に固定費を一気に増やす | 売上予測が外れたときのリスクが大きくなる |
このような状態では、売上が伸びても支出が膨らみ、最終的に現金残高が減る「黒字倒産」に近づいてしまいます。
固定費と変動費を「見える化」し、定期的に調整する習慣が資金繰り改善のカギ
資金ショートを防ぐためには、固定費と変動費を正しく分類し、毎月モニタリングして調整する仕組みが不可欠です。
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固定費:家賃、人件費(固定給)、保険料、通信費、リース料など、売上に関わらず発生する支出
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変動費:仕入原価、販売手数料、外注費、広告費など、売上や生産量に応じて変動する支出
ポイントは以下の3つです。
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固定費の比率を抑える
売上が下がったときのリスクを減らすため、固定費はなるべく軽くしておく。 -
変動費の変動幅を売上とリンクさせる
売上が減ったら変動費も自動的に減る仕組みを作る。 -
毎月の資金繰り表で支出の推移を可視化
予算と実績を比較し、異常値を早期に発見する。
この考え方を実践すれば、資金ショートのリスクを大幅に減らせるだけでなく、経営判断もスピーディーになります。
固定費と変動費のコントロールが資金繰り改善につながるワケ
資金ショートを防ぐうえで、なぜ固定費と変動費の管理が重要なのかを、経営の視点から解説します。
1. 固定費が高いと売上減少時のダメージが大きい
固定費は売上がゼロでも必ず支払わなければならないコストです。
そのため、売上が落ち込んだ場合でも出金は止まりません。
例えば、毎月の固定費が200万円の会社の場合、売上が30%減少しても固定費は変わらず、利益は一気に赤字化します。
式例:損益分岐点売上高
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
固定費が高いほど、損益分岐点が上がり、売上減少に弱くなります。
2. 変動費のコントロールでキャッシュフローの柔軟性が高まる
変動費は売上に比例する部分が多いため、仕組み次第でキャッシュ負担を軽くできます。
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外注費を歩合制にする
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仕入れ量を受注量に合わせる
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広告費を成果報酬型にする
このように「売上が減ったら自然に減る」構造にすれば、急な売上変動にも対応できます。
3. 固定費と変動費の最適化で利益構造が安定する
固定費の比率を抑えて変動費を売上にリンクさせると、利益率のブレ幅が小さくなります。
結果として、資金繰り表に現れる「月末現金残高」が安定し、突発的な資金ショートのリスクが減ります。
固定費・変動費コントロールの実践ケース
ケース1:飲食店の固定費削減
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Before
家賃:50万円、人件費(固定給):120万円、光熱費:20万円
固定費合計:190万円 -
After(見直し後)
家賃交渉で5万円減額、人件費の一部を時給制へ変更(固定給100万円に減額)
固定費合計:170万円
→ 月20万円の固定費削減で年間240万円のキャッシュ改善
ケース2:製造業の変動費最適化
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受注予測を精密化し、仕入れのタイミングを週1から隔週へ変更
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外注費を出来高払いに変更
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材料費・外注費を売上とリンクさせることで、売上減少時も資金流出を抑制
ケース3:ITサービス業の固定費圧縮と変動費化
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社員の一部を業務委託契約に切り替え、プロジェクト単位で報酬を支払う
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オフィスを縮小し、家賃を半減
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固定費を大幅に減らしつつ、案件数に応じて変動費が動く体制を構築
固定費と変動費をコントロールして資金ショートを防ぐ手順
ここでは、経営者が実践できる具体的な支出コントロールのステップを紹介します。
この手順を繰り返すことで、常に資金繰りの安定を図ることができます。
ステップ1:支出を固定費と変動費に分類する
まずは過去3〜6か月分の支出データを集め、固定費と変動費に分けます。
費用項目 | 固定費 or 変動費 | コメント例 |
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家賃 | 固定費 | 毎月同額発生 |
正社員給与 | 固定費 | 契約で固定 |
水道光熱費 | 固定費(変動要素あり) | 季節変動あり |
広告宣伝費 | 変動費 | 出稿量に比例 |
材料仕入れ | 変動費 | 売上に比例 |
外注費 | 変動費 | 案件数に比例 |
ポイント:分類の基準は「売上ゼロでも発生するか否か」。
ステップ2:固定費の削減余地を探す
固定費は売上に関係なく発生するため、少しの削減でも効果が大きいです。
削減アイデア例:
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家賃交渉やオフィス縮小
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固定給を一部歩合給に切り替え
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サブスクリプション契約の棚卸し
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保険・リース契約の見直し
計算例
固定費を月10万円減らすだけで、年間120万円のキャッシュ流出を抑制可能。
ステップ3:変動費を売上にリンクさせる
変動費は売上に応じて自然に増減する構造にすれば、資金繰りの柔軟性が増します。
改善例:
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外注費を出来高払いへ変更
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広告費を成果報酬型に移行
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仕入れを受注確定後に実施
ステップ4:資金繰り表に落とし込む
削減・最適化の結果を資金繰り表に反映し、月ごとの資金残高の推移を確認します。
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シミュレーション機能を使い、売上減少や支出増加の影響を事前に把握
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2025年対応のクラウド会計ソフト(freee・マネーフォワード等)を活用すると効率的
ステップ5:定期的に見直す(最低3か月ごと)
経営環境や契約条件は変化するため、固定費・変動費の見直しは定期的に行いましょう。
特に年度末や繁忙期後がベストタイミングです。
まとめ
資金ショートを防ぐには、
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固定費を抑えて利益構造を安定化
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変動費を売上にリンクさせて柔軟な資金繰り
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定期的な見直しと資金繰り表での可視化
が重要です。
これらを習慣化すれば、予期せぬ売上減少や経費増加にも耐えられる「資金繰りに強い会社」になります。