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役員報酬の設定次第で資金繰りが変わる?適正額の考え方とは?

役員報酬は会社経営の生命線

会社の経営において、役員報酬の金額設定は単なる給与決定ではありません。
実はこの数字ひとつで、会社の資金繰り・利益・税金・銀行評価が大きく変わります。

「役員報酬を高く設定すれば生活は楽になるが、会社のお金は減る」
「逆に低くすれば会社資金は残るが、役員個人の生活に影響が出る」

こうしたバランスの取り方が、会社経営者にとって大きな悩みどころです。

さらに、税務上のルールや銀行融資の評価基準、社会保険料の負担など、複雑な要素が絡み合います。
つまり、役員報酬は「感覚」で決めてはいけない項目なのです。


役員報酬の“感覚決め”が招く資金繰り悪化

役員報酬の金額を、

  • 「前年と同じだから」

  • 「生活費に必要な額だから」

  • 「税理士に言われたから」

といった理由だけで決めていませんか?

この方法には以下のようなリスクがあります。

リスクの種類 内容
資金ショート 報酬を高く設定しすぎて、手元資金が足りなくなる
銀行評価の低下 利益が減って自己資本比率が下がる
税務リスク 役員報酬の改定時期やルールを誤ると損金不算入になる
社会保険料負担増 高額報酬により健康保険・年金の負担が重くなる

つまり、「なんとなく決めた役員報酬」が資金繰りの悪化や融資条件の悪化につながる可能性があるのです。


役員報酬は「利益・資金・税務・生活」の4軸で決める

適正な役員報酬額を決めるには、次の4つの要素をバランスよく考慮する必要があります。

  1. 利益確保
     会社として必要な利益を確保しつつ報酬を設定する

  2. 資金繰り
     毎月のキャッシュフローを考え、資金ショートを防ぐ

  3. 税務メリット
     法人税・所得税・住民税・社会保険料のトータル負担を最適化する

  4. 生活資金
     役員個人の生活費や将来の貯蓄を確保する

この4軸を考慮すると、役員報酬は「会社と経営者の両方が持続的に成長できる額」に落ち着きます。

役員報酬が資金繰り・税務・融資に与える影響

1. 資金繰りへの直接的影響

役員報酬は、会社のキャッシュフローに直結します。
給与として支払った金額はそのまま会社の現預金から出ていきます。

【資金繰り計算の簡易例】

  • 売上:500万円/月

  • 経費(役員報酬除く):300万円/月

  • 役員報酬:150万円/月

→ 残る資金 = 500 - 300 - 150 = 50万円/月

このように、役員報酬を10万円増やすだけで、毎月の手元資金は10万円減少します。
もし手元資金が十分でない場合、資金ショートのリスクが高まります。


2. 税務への影響

役員報酬は法人の損金に算入できるため、法人税の課税所得を減らす効果があります。
しかし、同時に役員個人の所得税・住民税の負担が増えるため、法人税と所得税のトータル負担で考える必要があります。

【税務の視点】

  • 法人税率(中小企業):約23.2%(一部軽減税率あり)

  • 所得税+住民税:最大55%(累進課税)

例えば、役員報酬を減らして法人利益を増やすと、法人税は増えるが個人税負担は減ります。
逆に、役員報酬を増やすと法人税は減るが、個人税負担が増えることになります。

このバランス調整が節税戦略の核心です。


3. 融資評価への影響

銀行は融資審査時に「決算書の利益額」や「自己資本比率」を重視します。
役員報酬を高く設定すると利益が減り、これらの数値が悪化する可能性があります。

銀行の見方

  • 利益額が低いと「返済能力が低い」と判断される

  • 自己資本比率が低いと「財務基盤が弱い」と評価される

  • 安定した役員報酬と利益のバランスがある企業は「計画性がある」と見られる

融資を受けやすくするためにも、銀行評価を意識した役員報酬設定が必要です。


4. 社会保険料負担への影響

役員報酬が高額になると、健康保険・厚生年金保険料も増えます。
社会保険料は「標準報酬月額」に基づき計算され、概ね報酬の15%程度が会社負担、同額が役員負担となります。

【社会保険料シミュレーション】

  • 報酬50万円/月 → 会社・役員それぞれ約7.5万円の負担

  • 報酬100万円/月 → 会社・役員それぞれ約15万円の負担

高額な役員報酬は、税金だけでなく社会保険料の負担増も招きます。


役員報酬設定の基本方針

これらを踏まえると、役員報酬は以下の順序で検討するのがベストです。

  1. 必要利益の確保(融資・事業投資のため)

  2. 資金繰りの安定化(毎月のキャッシュフロー確保)

  3. 税務最適化(法人税と所得税のバランス)

  4. 生活資金の確保(役員個人の生活を守る)

役員報酬の適正額を考えるためのシミュレーション

1. 法人税と所得税のバランスシミュレーション

役員報酬額を変えた場合の、法人税・所得税・社会保険料の合計負担を比較します。
(中小企業の法人税率・標準的な所得税率・社会保険料率を前提にした概算例)

項目 ケースA:報酬40万円/月 ケースB:報酬70万円/月 ケースC:報酬100万円/月
年間役員報酬 480万円 840万円 1,200万円
法人税額(概算) 約180万円 約100万円 約30万円
所得税・住民税(概算) 約50万円 約120万円 約250万円
社会保険料(会社負担) 約72万円 約126万円 約180万円
社会保険料(役員負担) 約72万円 約126万円 約180万円
合計負担額 約374万円 約472万円 約640万円
手元に残る金額(会社+個人) 約586万円 約568万円 約560万円

分析ポイント

  • ケースBが必ずしも手元資金が多く残るわけではない

  • 報酬を増やしすぎると、税金・社会保険料の負担が急増し、手取りや会社資金が減少する

  • 税金だけでなく「社会保険料の影響」も考慮すべき


2. 資金繰りを重視する場合の設定例

条件

  • 売上:毎月800万円

  • 経費(役員報酬除く):毎月500万円

  • 銀行融資返済:毎月50万円

  • 手元資金の目標:毎月100万円確保

計算

  • 800万円(売上) - 500万円(経費) - 50万円(返済) - 100万円(資金確保) = 150万円(役員報酬の上限)

ここから税務・社会保険を加味して、実際の報酬は120万~130万円程度が妥当と判断。


3. 融資を受けやすくするための設定例

銀行は「利益額」を重視します。
利益を確保するには、役員報酬を抑える必要があります。

条件

  • 目標利益:年500万円

  • 売上:年1億円

  • 経費(役員報酬除く):年6,000万円

計算

  • 利益500万円 + 経費6,000万円 = 必要残額6,500万円

  • 売上1億円 - 6,500万円 = 役員報酬3,500万円(年額)

  • 月額報酬:約290万円まで可能だが、融資評価を優先して月200万円程度に設定


4. 節税を重視する場合の設定例

節税だけを考えると、利益を極力減らし、役員報酬として支払う方法があります。
ただし、融資や将来の投資資金を考慮しないと危険です。

  • 年間利益2,000万円 → 全額役員報酬で支給 → 法人税ほぼゼロ

  • ただし、役員個人の所得税率が高くなり、社会保険料負担も増加

  • 総負担は必ずしも軽くならないケースが多い


ケース別まとめ表

優先項目 報酬設定の方向性 メリット デメリット
資金繰り 月額報酬を低めに抑え、会社資金を厚くする 倒産リスク低減、投資余力確保 役員個人の生活費に影響
融資評価 利益を確保し、自己資本比率を維持 融資審査で有利 個人の可処分所得が減少
節税 法人利益を減らして法人税軽減 法人税削減効果大 社会保険料・所得税増加

役員報酬の適正額を決めるための実践ステップ

ステップ1:自社の資金繰り表を作成する

役員報酬を決める前に、まずは会社の資金の流れを正確に把握することが必須です。
作成ポイント

  • 毎月の売上・入金予定

  • 毎月の経費(人件費・仕入・固定費など)

  • 融資返済額

  • 設備投資や大型支出の予定

  • 毎月の資金残高目標

アドバイス
資金繰り表は最低でも半年先まで、理想は1年間分を作成して見通しを立てましょう。


ステップ2:目標利益と融資評価を意識する

銀行融資を受けやすくするためには、適正な利益水準を確保することが重要です。
利益ゼロにして節税を優先するよりも、利益を残すことで財務健全性をアピールできます。

実務例

  • 銀行から借入を検討している場合は、役員報酬を下げてでも利益を残す

  • すでに資金余裕がある場合は、将来の投資計画と合わせて報酬を調整


ステップ3:税負担と社会保険料の総額を試算する

役員報酬を決める際は、必ず法人税・所得税・住民税・社会保険料の合計額を試算しましょう。
会計ソフトや税理士に依頼すれば、複数パターンの試算が可能です。

注意点

  • 社会保険料は報酬額に比例して増えるため、高額設定は負担が大きくなる

  • 税金と保険料のバランスを見て、手取りと会社資金の最適化を図る


ステップ4:年1回の見直しをルール化する

役員報酬は原則、事業年度開始から3か月以内に決定し、その後は変更できません。
ただし、新年度の開始時に見直すことは可能です。

見直しタイミングの例

  • 前期より売上・利益が増減した

  • 銀行融資を予定している

  • 大型投資や事業拡大を計画している


ステップ5:専門家と連携して決定する

役員報酬の適正額は、経営者だけで判断するよりも税理士・社会保険労務士・金融機関担当者と相談するのが望ましいです。

相談すべき内容

  • 節税と融資評価のバランス

  • 社会保険料の負担軽減策

  • 将来の事業計画と資金戦略


役員報酬は「節税額」よりも「経営全体のバランス」で決める

役員報酬は、単なる給与額の決定ではなく、会社の資金繰り、税負担、融資評価、さらには将来の事業展開に直結する重要な経営判断です。
短期的な節税だけにとらわれず、中長期的な会社の成長と安定を見据えて設定することが成功の鍵となります。

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