経営改善計画の第一歩は財務分析から
経営が思うように伸びない、資金繰りが厳しい、利益は出ているのに現金が増えない——。
こうした課題に直面したとき、多くの経営者は「売上を増やす」ことを最優先に考えます。
しかし、経営改善の出発点は「現状を正しく把握すること」です。
そして、そのために欠かせないのが財務分析です。
財務分析を行えば、自社の強み・弱みや資金の流れ、利益構造を客観的に把握できます。
これにより、改善計画の方向性や優先順位を明確にし、無駄な施策や逆効果の対策を避けられます。
財務分析を軽視すると改善計画が失敗する
経営改善計画を作成する企業の多くが、数字ではなく感覚に頼った判断をしてしまいます。
その結果、以下のような問題が起きます。
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売上増加のための投資が資金繰りを悪化させる
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本当の赤字要因を見逃し、改善施策が的外れになる
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金融機関や投資家への説明が不十分で、資金調達に失敗する
つまり、財務分析を省略した改善計画は「的のない矢」を放つようなものです。
努力や投資が成果につながらないばかりか、状況を悪化させるリスクすらあります。
財務分析は改善計画の「羅針盤」
経営改善計画の成功率を高めるには、
財務分析によって現状を数値で把握し、その根拠に基づいて施策を設計することが不可欠です。
具体的には、以下の3つの観点で分析を行う必要があります。
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収益性の分析:売上や利益の構造を把握し、どこで稼ぎ、どこで損をしているかを明確にする
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安全性の分析:資産・負債のバランスや借入依存度を評価し、財務基盤の安定性を確認する
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効率性の分析:在庫回転率や資産の活用度を測定し、経営資源がどれだけ有効に使われているかを判断する
これらを踏まえた上で計画を立てることで、金融機関への説得力も高まり、実行性の高い改善が可能になります。
財務分析が改善計画の質を左右する3つの理由
1. 改善ポイントの優先順位を決められる
限られた経営資源の中で、どの課題から手をつけるべきかは数字が教えてくれます。
例えば、赤字の原因が原価率の上昇なのか、販管費の増加なのかによって、取るべき施策は全く異なります。
2. 金融機関の信頼を得やすくなる
改善計画は融資やリスケジュールの交渉材料になることも多いです。
財務分析を伴った計画は、数字で裏付けられているため説得力があり、金融機関からの評価が高まります。
3. 施策効果を数値で検証できる
改善後の数字を計画と比較することで、施策の効果を定量的に把握できます。
これにより、計画の軌道修正や追加施策の検討も容易になります。
具体例:財務分析の方法と主要指標
財務分析は難しそうに感じるかもしれませんが、ポイントを押さえれば経営者自身でも実施可能です。ここでは、改善計画の立案に役立つ主要な分析方法と指標を紹介します。
1. 損益計算書(PL)の分析
損益計算書では、売上・原価・販管費のバランスを確認します。
項目 | 注目ポイント | 改善アクション例 |
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売上総利益率 | 売上に対してどれだけ粗利を確保できているか | 原価削減、販売単価の見直し |
営業利益率 | 本業での利益率 | 販管費削減、利益率の高い商品に注力 |
経常利益率 | 営業外収支も含めた利益率 | 借入金利負担の軽減 |
2. 貸借対照表(BS)の分析
貸借対照表は企業の財務基盤を映す「経営の健康診断書」です。
指標 | 計算式 | 意味 | 判断の目安 |
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自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資産 | 財務の安定性 | 30%以上が望ましい |
流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 | 短期の支払能力 | 200%以上が理想 |
固定比率 | 固定資産 ÷ 自己資本 | 長期資金の健全性 | 100%以下が理想 |
3. キャッシュフロー計算書の分析
現金の流れを把握することで、黒字倒産のリスクを回避できます。
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営業キャッシュフロー:本業の稼ぎを示す。プラスが望ましい。
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投資キャッシュフロー:設備投資や資産購入の動向。マイナスは投資中を意味する。
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財務キャッシュフロー:借入や返済の動向。借入過多になっていないか確認。
4. 効率性指標
資産をどれだけ効率的に使っているかを確認します。
指標 | 計算式 | 改善の方向性 |
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在庫回転率 | 売上原価 ÷ 平均在庫高 | 在庫圧縮、発注頻度の最適化 |
売掛金回転日数 | 売掛金 ÷ 1日あたり売上高 | 回収条件の見直し |
固定資産回転率 | 売上高 ÷ 固定資産 | 遊休資産の売却、設備稼働率向上 |
財務分析を経営改善計画に落とし込む手順
財務分析の結果をもとに改善計画を作成するには、次の手順が効果的です。
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現状把握
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財務諸表を最新のものに更新し、主要指標を計算
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過去3〜5年分の推移を比較して傾向を把握
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課題の特定
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指標ごとに業界平均や自社の目標値と比較
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改善が必要な分野(収益性・安全性・効率性)を明確化
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改善施策の立案
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優先順位をつけ、短期・中期・長期に分けて施策を設定
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定量的な目標値(例:営業利益率3%向上)を設定
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資金計画の作成
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施策実行に必要な資金と調達方法を明確化
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キャッシュフロー計画を作成して資金ショートを防止
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実行とモニタリング
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毎月の試算表で計画との差異を確認
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必要に応じて施策を修正
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まとめ
経営改善計画の成否は、事前の財務分析に大きく左右されます。
数字に基づいた現状把握は、改善の優先順位を明確にし、効果的な施策を打つための羅針盤となります。
特に、金融機関への融資交渉や取引先への信用維持のためにも、財務分析は欠かせません。
「感覚」ではなく「数字」で経営を判断し、持続的な改善につなげていきましょう。