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在庫が多すぎると資金繰り悪化に?仕入れと回転率の見直しポイント

在庫は会社の体力を奪う「隠れた負債」

多くの経営者は「在庫は資産」と考えます。確かに帳簿上は資産として計上されますが、現金化するまでの間は資金を縛り付ける存在でもあります。
特に中小企業や個人事業主の場合、「売れるはず」と思って仕入れた商品が倉庫に眠り続け、結果として現金不足に陥るケースが後を絶ちません。
在庫過多は見た目の売上や商品数に安心感を与える反面、資金繰り悪化の引き金にもなり得るのです。


在庫過多がもたらす3つの資金繰りリスク

過剰在庫は単なる保管スペースの問題ではなく、経営全体のキャッシュフローを圧迫します。そのリスクは以下の3点に集約されます。

  1. 資金の固定化による運転資金不足
    在庫は売れて初めて現金化されます。それまでは仕入代金の回収ができず、資金が倉庫に「凍結」されます。

  2. 保管・管理コストの増加
    倉庫代、光熱費、管理人件費など、在庫維持には見えないコストがかかります。

  3. 陳腐化・廃棄のリスク
    トレンドの変化や消費期限切れによって売れなくなり、値引き販売や廃棄による損失が発生します。

この3つのリスクが重なることで、資金繰りは一気に悪化します。


適正在庫と回転率の管理が資金繰り改善のカギ

資金繰りを安定させるためには、「必要なときに必要な分だけ在庫を持つ」 という管理が欠かせません。
そのためのポイントは以下の2つです。

  • 適正在庫の維持:欠品を防ぎつつ、過剰在庫を抱えない水準を保つ。

  • 回転率の向上:在庫が短期間で現金化されるサイクルを作る。

在庫量と回転率を見直せば、仕入から販売、そして入金までの流れがスムーズになり、資金繰りの改善につながります。


なぜ在庫は資金繰りを悪化させるのか

在庫が資金繰りに直結する理由は、資金の流れに隠れています。

資金の固定化

在庫は売れるまで現金化できず、その間は仕入代金や経費の支払いに使えません。これにより、売上があっても現金不足に陥る「黒字倒産」が発生します。

保管コストの負担

特に保管期間が長くなるほど、倉庫代や保険料などの固定費が増加します。商品が売れるまでの間、利益を圧迫し続ける構造です。

陳腐化リスク

市場の変化や季節要因によって売れ残りが発生し、値下げ販売や廃棄で損失が出ることもあります。

在庫過多が経営を圧迫した事例と改善の成功パターン

事例1:アパレルショップの季節商品在庫

ある地方のアパレルショップでは、前年の売れ筋だった冬物コートを多めに仕入れました。しかし暖冬の影響で売上が伸びず、在庫の半分がシーズン終了時に残りました。
結果として倉庫代やセールでの値引きによって利益率が大幅に低下し、翌シーズンの仕入資金が不足。結果的に翌年の新作導入が遅れ、競合に売上を奪われました。

改善策:翌年からはPOSデータを活用して販売実績を分析し、シーズン中の追加発注方式に変更。在庫リスクを最小化し、現金保有率を改善。


事例2:製造業の原材料在庫

中小の製造業A社は、原材料の価格上昇を見越して大量に一括購入。しかし需要予測を誤り、材料の一部が長期在庫化。保管コストと資金固定化で資金繰りが悪化し、仕入先への支払いが遅延する事態に。
金融機関からの短期融資で急場をしのいだものの、金利負担が増え、利益をさらに圧迫しました。

改善策:材料ごとの消費スピードを分析し、発注単位を小口化。納期交渉により短納期での供給体制を構築し、在庫回転率を向上。


事例3:食品卸売業の賞味期限切れ在庫

食品卸のB社では、販促目的で新商品を大量仕入れ。しかし取引先小売店での販売が想定より遅く、賞味期限切れで半分以上が廃棄処分に。
この廃棄損失が原因で営業利益が赤字化し、資金繰りのために保有不動産を売却せざるを得ませんでした。

改善策:仕入前に販売先の確定契約を取り付け、売れ残りリスクを最小化。さらに賞味期限を意識した販売計画を作成し、早期販売を徹底。


在庫管理改善のための実践ステップ

1. 在庫回転率を定期的に測定する

在庫回転率は、
在庫回転率=売上原価 ÷ 平均在庫額
で求められます。月次または四半期ごとに確認し、基準値より低ければ改善の余地があります。


2. 発注ルールを見直す

  • 売上予測型発注:過去データや季節要因を基に発注数量を算出

  • 安全在庫の設定:欠品を防ぐための最低在庫数を決め、それを下回ったら発注

  • ジャストインタイム方式:必要なタイミングで必要量だけ発注


3. 仕入先との交渉で柔軟性を確保

  • 発注ロットの最小化

  • 短納期納品の交渉

  • 返品・交換条件の設定

これにより、売れ行きに応じた柔軟な在庫調整が可能になります。


4. 不良在庫の早期処分

値引き販売や在庫セールを活用し、資金化を優先します。特に売れ残りが長期化するほど保管コストと陳腐化リスクが高まるため、**「売れるうちに現金化」**が鉄則です。


5. ITツールを活用した在庫可視化

クラウド在庫管理システムや会計ソフトを利用すれば、在庫状況・販売実績・回転率をリアルタイムで把握できます。
例:freee在庫管理、マネーフォワードクラウド、弥生販売など。

資金繰り改善と在庫管理を結びつける戦略的アプローチ

在庫管理は単なる倉庫内の作業ではなく、会社全体の資金繰り戦略と直結します。売れない在庫は、現金を眠らせる「資金の墓場」です。一方、適正な在庫水準は販売機会を逃さず、顧客満足度の向上にもつながります。

資金繰りを意識した在庫管理の考え方は、以下のポイントに集約されます。


1. キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)の短縮

CCCとは、「仕入→販売→入金」までの期間を示す指標です。この期間を短くすれば、資金繰りは格段に楽になります。

  • 在庫滞留日数を減らす

  • 販売後の入金サイトを短縮する

  • 仕入先への支払サイトを延ばす


2. 利益率と回転率のバランスを最適化

利益率が高くても回転率が低いと資金は固定化されます。逆に回転率が高くても利益率が低ければ資金効率は悪化します。
→ 商品別に「粗利 × 回転率」で比較し、優先的に販売すべき商品を決めましょう。


3. シミュレーションで在庫水準を予測

販売予測や季節変動を考慮し、複数パターンで在庫・売上・資金繰りをシミュレーションします。これにより、資金不足のリスクを事前に把握できます。


4. 部門横断の在庫情報共有

営業・仕入・経理がそれぞれ別の情報を持っていると在庫判断が遅れます。クラウドシステムを使って在庫・売上・資金繰り情報を全員で共有することで、判断のスピードと精度が上がります。


在庫管理は資金繰りの生命線

在庫が多すぎると、売れ残りや値引きによる損失だけでなく、現金不足による資金繰り悪化を招きます。
逆に、在庫を適正化すれば現金の流れが改善し、成長のための投資や緊急時の資金確保がしやすくなります。

今日からできる第一歩

  1. 在庫回転率を計算して現状を把握する

  2. 発注ルールを見直す

  3. 不良在庫の処分計画を立てる

この3つを始めるだけでも、資金繰り改善への道筋は見えてきます。

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