黒字なのに資金が足りない経営者の共通悩み
「決算では黒字なのに、口座残高がほとんどない…」
多くの経営者や個人事業主が一度は経験する、この不思議で不安な現象。
売上は伸びているはずなのに、なぜか支払いに追われ、運転資金がギリギリになる。
その原因は、会計上の利益と実際の現金の動きが一致していないことにあります。
資金繰りを安定させるには、このズレの構造を理解し、経営判断に反映させることが不可欠です。
利益と現金のズレが引き起こす深刻なリスク
利益が出ているのにお金がない状態を放置すると、経営に重大なリスクが発生します。
典型的な原因とリスクは以下の通りです。
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売上計上はしたが入金が遅れている(売掛金が増加)
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設備投資や在庫仕入れで現金が減少
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借入金返済や税金支払いで資金が減少
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キャッシュフローを把握していない
発生するリスク | 具体的影響 |
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黒字倒産 | 支払い不能による信用失墜、取引停止 |
借入依存 | 運転資金を借入で補填、金利負担増 |
資金ショート | 支払い遅延で従業員・取引先離れ |
中小企業や個人事業主は資金ショートからの回復が難しく、黒字倒産の危険が高いと言えます。
利益とお金を分けて考え、両方を管理する
「利益=お金」ではありません。
経営者は利益だけでなく、**キャッシュの流れ(資金繰り)**も同時に管理しなければなりません。
特に有効な3つのアプローチは以下の通りです。
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利益とキャッシュの関係を数字で把握する
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キャッシュフロー計算書・資金繰り表を活用する
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資金繰り改善の習慣を経営に組み込む
これらを継続的に行うことで、利益が出ているのにお金が足りない状態を回避できます。
理由①:会計上の利益と現金の動きはタイミングが違う
会計は発生主義を採用しており、売上や経費は「発生した時点」で計上します。
たとえば3月に100万円の売上を計上しても、入金が5月なら、その間現金は増えません。
このタイムラグが、黒字でも資金不足になる大きな原因です。
理由②:設備投資や在庫購入による一時的な資金流出
黒字企業ほど将来を見据えて設備投資や仕入れを行います。
しかし、これらは支払い時に現金が減る一方で、会計上は減価償却や売上計上によって徐々に利益に反映されます。
投資例 | 会計上の影響 | 現金の影響 |
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設備100万円購入 | 減価償却で数年に分割して経費化 | 購入時点で100万円減少 |
在庫仕入50万円 | 売上計上まで原価にならない | 仕入時点で50万円減少 |
理由③:借入金返済や税金支払いは損益計算書に反映されない
借入金の元本返済や法人税・消費税の支払いは、損益計算書上は経費になりません。
そのため、利益が黒字でも、これらの支払いで資金が減少するケースが多くあります。
理由④:キャッシュフロー管理をしていない
損益計算書だけを見ている経営者は多いですが、現金の増減を把握するにはキャッシュフロー計算書や資金繰り表が必要です。
これらを使わないと、資金不足の兆候を見逃しやすくなります。
具体例①:利益は黒字でも資金ショートするシナリオ
モデルケース:A社(サービス業・決算月3月)
月 | 売上 | 経費 | 利益 | 現金残高(期首50万円) | 備考 |
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1月 | 200万円 | 150万円 | 50万円 | 50万円 → 100万円 | 売掛金150万円(2か月後入金) |
2月 | 200万円 | 150万円 | 50万円 | 100万円 → 150万円 | 売掛金150万円(2か月後入金) |
3月 | 250万円 | 180万円 | 70万円 | 150万円 → 40万円 | 設備投資200万円現金払い |
4月 | 220万円 | 150万円 | 70万円 | 40万円 → -60万円 | 税金支払い100万円 |
5月 | 250万円 | 160万円 | 90万円 | -60万円 → 140万円 | 1月分売掛金入金 |
ポイント
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会計上は4か月連続で黒字(総利益260万円)
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しかし3月の設備投資と4月の税金支払いで現金残高がマイナスに
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5月にやっと売掛金入金で回復するが、資金ショート寸前
具体例②:回収サイトの長さが資金繰りに与える影響
売上入金までの期間(回収サイト)が長いほど、運転資金の負担は増えます。
回収サイト | 必要運転資金(売上200万円・月経費150万円) |
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30日 | 約150万円 |
60日 | 約300万円 |
90日 | 約450万円 |
解説
取引条件を見直すだけで、資金繰りの改善効果は非常に大きくなります。
行動①:資金繰り表を毎月更新する
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売上・経費・税金・借入返済・投資支出を時系列で並べる
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少なくとも6か月先までの現金残高を予測
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マイナスになりそうな月は事前に資金調達や支出見直し
行動②:回収条件の交渉と前倒し
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新規取引はなるべく回収サイト30日以内に設定
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既存取引先とも前倒し入金の交渉(例:早期入金割引)
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売掛金保証やファクタリングの活用も検討(※利用コスト要注意)
行動③:固定費と変動費の見直し
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固定費(家賃・人件費・通信費)を定期的に棚卸し
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変動費(広告費・外注費)は売上比率で上限を設定
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利益が増えても支出を比例して増やさない「固定費抑制型経営」
行動④:利益計画とキャッシュ計画をセットで立てる
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損益計画だけではなく、キャッシュフロー計画も作成
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利益の一部は「納税・投資・内部留保」に分けて資金確保
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毎月の利益=自由に使えるお金ではないことを認識
利益とお金のダブル管理が黒字倒産を防ぐ
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黒字なのにお金がない原因は、発生主義会計のタイムラグ・投資・税金支払いなど
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キャッシュフロー計算書や資金繰り表で現金残高の先読みをする
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売掛金回収・固定費見直し・計画的資金配分が有効
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利益とお金を両方管理する「ダブル視点経営」が資金ショートを防ぐ