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売上が増えても資金が残らない理由|利益とキャッシュの違いを理解しよう

はじめに

「前年より売上が伸びたのに、なぜか資金繰りが苦しい…」
これは多くの中小企業や個人事業主が経験する“経営の不思議”です。特に、黒字決算を出しているのに現金残高が減っていく現象は、「黒字倒産」とも呼ばれ、最悪の場合は事業継続ができなくなるリスクもあります。

こうした問題の背景には、「利益」と「キャッシュ(現金)」の違いを理解していないことが大きく関係します。
損益計算書上は黒字でも、実際の銀行口座の残高は減っていく──その原因を明らかにし、改善策を講じることが、安定経営への第一歩です。

この記事では、

  • なぜ売上が増えても資金が残らないのか

  • 利益とキャッシュの根本的な違い

  • 資金ショートを防ぐための経営管理方法

  • 実践的な改善ポイントと行動ステップ
    を、初心者にもわかりやすく解説します。


売上増=資金増ではない現実

経営者が陥りやすい誤解

多くの経営者は、「売上が伸びれば資金も増えるはず」と考えます。しかし実際には、売上増加が逆に資金繰りを圧迫することがあります。その理由は主に以下の通りです。

  • 売上と入金時期のズレ(売掛金の回収遅れ)

  • 在庫の増加による資金の滞留

  • 設備投資や借入返済によるキャッシュアウト

  • 税金支払いのタイムラグ

黒字倒産というリスク

国税庁や中小企業庁の統計によると、黒字倒産の主な原因は「運転資金不足」です。これは利益があってもキャッシュが足りず、支払いに行き詰まる状態を指します。黒字倒産は、特に成長期や新規取引拡大時に発生しやすいのが特徴です。


利益とキャッシュの違いを理解することが出発点

まず押さえておくべきことは、「利益」と「キャッシュ」は別物だという事実です。

  • 利益:損益計算書(PL)上の数値。売上から費用を差し引いた“会計上の成果”

  • キャッシュ:実際の現金・預金残高。日々の資金の出入りの実態

つまり、利益は将来的な入金を含んで計算されますが、キャッシュは「今あるお金」です。
この違いを意識しないと、経営判断を誤り、資金ショートの危険性が高まります。


利益とキャッシュの違いを数字で理解する

利益とキャッシュの比較表

項目 利益(PL) キャッシュ(資金残高)
基準 会計基準 実際の入出金
計上タイミング 発生主義 現金主義
含まれる内容 売掛金・未払費用 現金・預金のみ
意味 会計上の成果 支払い能力の源泉

売上が増えても資金が残らない5つの原因

原因1 売上と入金のタイムラグ(売掛金の増加)

売上は計上されても、すぐに現金が入るとは限りません。特にBtoB取引では、
「月末締め → 翌月末入金」や「翌々月末入金」 などの条件が一般的です。

売上が急増すると売掛金も増え、その分、入金までの間は資金が手元にない状態になります。

事例:

  • 3月売上:500万円(入金は5月末)

  • 4月売上:600万円(入金は6月末)

  • 4月中の資金残高は増えず、仕入れや経費の支払いが先に発生する

対策例:

  • 入金サイトの短縮交渉

  • 請求書の早期発行

  • ファクタリングなどの活用(ただし手数料コストに注意)


原因2 在庫の増加による資金の滞留

売上増加に伴い、販売機会を逃さないために在庫を増やす企業は多いですが、
在庫は現金が「モノ」に変わった状態であり、売れるまでは資金化できません。

ポイント:

  • 在庫過剰は資金繰り悪化の大きな要因

  • 棚卸資産は会計上資産に計上されるが、実際のキャッシュにはならない

対策例:

  • ABC分析で回転率の低い在庫を減らす

  • 受注生産や少量多頻度発注に切り替える


原因3 設備投資・事業拡大による支出

事業成長のために行う設備投資や新規拠点の開設は、短期的には大量のキャッシュアウトを伴います。
減価償却費は数年に分けて費用計上されますが、支払いは購入時点で一括または短期に集中します。

例:

  • 新しい生産設備を1,000万円で購入(全額キャッシュ払い)

  • 損益計算書上は年間200万円ずつ償却

  • しかし資金は購入時に一気に減少


原因4 借入金返済(元本)の影響

借入金の元本返済は、損益計算書には費用として計上されません。
そのため、利益には影響しない一方、キャッシュフローには直接マイナスとなります。

対策例:

  • 返済スケジュールの見直し

  • 借り換えによる返済期間の延長


原因5 税金・社会保険料の支払い

利益が出ると税金の支払いが発生します。特に法人税・消費税・社会保険料は金額が大きく、支払い時期も集中します。

注意点:

  • 消費税は預かっているだけの税金だが、使い込むと納付時に資金不足に陥る

  • 利益が出ていても納税資金を事前に積み立てていないと危険


5つの原因まとめ(表)

原因 資金減少のタイミング 会計上の利益への影響
売掛金増加 売上計上後〜入金まで 利益には反映されるが現金は入らない
在庫増加 仕入れ時点 費用計上は売上時、資金は先に減少
設備投資 購入時 減価償却で分割費用計上
借入返済 元本返済時 費用にならずキャッシュのみ減少
税金支払い 納付時 利益計上後に発生

黒字倒産を招く資金繰り悪化シナリオ

事例シナリオの設定

ここでは、製造業を営む小さな会社(株式会社A社)を例にします。

前提条件(1年間)

  • 年間売上高:6,000万円(毎月500万円)

  • 売上の入金サイト:翌月末

  • 年間売上原価(仕入・材料費):3,000万円(毎月250万円、支払いは当月末)

  • 年間人件費:1,800万円(毎月150万円)

  • その他経費:600万円(毎月50万円)

  • 設備投資:初月に500万円キャッシュで購入

  • 借入金返済:毎月20万円(年間240万円)

  • 税金(法人税・消費税など):期末に400万円支払い


損益計算書(P/L)ベースの見え方

損益計算書では以下のように見えます。

項目 金額(年間)
売上高 6,000万円
売上原価 3,000万円
売上総利益 3,000万円
人件費 1,800万円
その他経費 600万円
減価償却費 100万円(設備投資の耐用年数5年)
営業利益 500万円
税引後利益 350万円

この数字だけを見ると、**「年間350万円の黒字」**で順調そうに見えます。


キャッシュフローの現実

しかし実際の資金の流れを追うと、結果は大きく異なります。

キャッシュフロー計算(簡易版)

項目 金額(年間)
税引後利益 +350万円
減価償却費(非現金費用) +100万円
売掛金増加(1か月分) ▲500万円
設備投資支出 ▲500万円
借入金元本返済 ▲240万円
税金支払い ▲400万円
年間キャッシュ増減 ▲1,190万円

結果:
黒字なのに資金は1,190万円減少。
原因は売掛金増加・設備投資・税金・借入返済といった**「損益計算書にすぐ反映されないキャッシュアウト」**です。


月別資金推移(イメージ)

(単位:万円)

売上計上 入金 支出合計(仕入・人件費・経費・返済) 月末資金残高
1月 500 0 470 + 設備投資500 ▲470
2月 500 500 470 ▲440
3月 500 500 470 ▲410
4月 500 500 470 ▲380
5月 500 500 470 ▲350
6月 500 500 470 ▲320
7月 500 500 470 ▲290
8月 500 500 470 ▲260
9月 500 500 470 ▲230
10月 500 500 470 ▲200
11月 500 500 470 ▲170
12月 500 500 470 + 税金400 ▲540

このように、利益は出ていても期末に税金や返済が集中すると一気に資金がマイナスになります。


事例から学べる教訓

  1. 売掛金の回収期間短縮が資金繰り改善のカギ

  2. 設備投資はキャッシュの余力を見極めて実行

  3. 税金は期中から積立しておく

  4. 借入返済は返済比率を利益とキャッシュフローの両方でチェック

利益とキャッシュのズレを埋めるための実践アクション

資金繰り改善のための基本ステップ

利益とキャッシュのギャップを小さくするためには、以下の4ステップで行動することが有効です。

  1. 資金繰り表を作る

    • 少なくとも月単位で1年間の予測を作成

    • 売上・入金時期・支出(仕入・人件費・経費・返済・税金)を明確化

    • ExcelやGoogleスプレッドシートで簡単に作成可能

  2. 売掛金の回収条件を見直す

    • 回収サイト短縮(例:月末締め翌月末払い → 月末締め翌15日払い)

    • 先払い・分割払い・カード決済の導入も検討

    • 未回収の売掛金は早期に督促

  3. 支出のタイミングを調整

    • 大きな投資はキャッシュ余力を確認してから実行

    • 年間の支払スケジュールを事前に作成し、資金ショートを防ぐ

    • 経費は月ごとに平準化できるものは平準化する

  4. 税金・返済資金の事前積立

    • 税金用の別口座を作り、毎月の利益見込みに応じて積立

    • 借入返済額は毎月のキャッシュフローに組み込み、計画的に対応


資金繰り改善チェックリスト

以下のチェックリストで、現在の経営状況を確認しましょう。

項目 Yes/No
月次資金繰り表を作成している
売掛金回収期間を把握している
未回収売掛金の一覧を毎月チェックしている
税金用積立口座を持っている
設備投資前に資金シミュレーションをしている
借入返済がキャッシュを圧迫していないか確認している

Yesが半分以下の場合は、資金ショートのリスクが高まります。


資金繰り表テンプレート活用法

推奨フォーマット(Googleスプレッドシート例)

売上予定 入金予定 仕入・経費 借入返済 税金積立 月末残高
1月 500 0 470 20 30 ▲20
2月 500 500 470 20 30 ▲40
3月 500 500 470 20 30 ▲60
  • 数字は現金の動きベースで記入

  • 少なくとも6か月先まで見通す

  • 入金予定は現実的な回収見込みで入力(遅延も想定)


資金繰り改善の実務ポイント

  1. クラウド会計ソフトの活用

    • freee、マネーフォワードなどでは資金繰り予測機能を搭載

    • 銀行口座やクレジットカードと連携して自動更新可能

  2. 資金繰りと利益計画のリンク

    • 損益計画だけでなくキャッシュフロー計画も同時に策定

    • 「黒字=資金が増える」ではないことを常に意識

  3. 金融機関とのコミュニケーション

    • 資金ショートの可能性がある場合は早めに銀行へ相談

    • 資金繰り表を提示することで信用度が高まる


まとめ

  • 利益とキャッシュは別物であり、黒字でも資金ショートは起こり得る

  • 資金繰り表を作ることで将来の危険を可視化できる

  • 入金・支出のタイミング調整、税金積立、投資判断の慎重化でリスクを減らせる

  • クラウド会計やテンプレートを活用すれば、初心者でも管理可能

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