家族への給与支払いは節税になるのか
「子どもに給与を払えば節税になる」と聞いたことはありませんか?
実際、家族を従業員として雇い給与を支払うことは、所得分散の有効な方法として古くから活用されています。
しかし、単純に家族名義で給与を支払えばよいわけではなく、税務署が認める条件や注意点があります。
正しく行えば節税効果が期待できますが、誤ったやり方をすると経費として認められず、かえって追徴課税のリスクもあります。
この記事では、個人事業主・中小企業経営者が「家族従業員に給与を支払う場合のルール・節税効果・リスク・具体的な活用法」までを網羅的に解説します。
誤解されやすい「家族給与」の落とし穴
家族従業員への給与支払いについて、よくある誤解は以下のようなものです。
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家族なら誰でも給与を払えば経費にできる
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子どもや配偶者に高額の給与を支払えば、その分だけ課税所得が減る
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実際に働いていなくても給与として処理できる
これらは一部事実ですが、多くの場合は税務署に否認されるリスクがあります。
特に未成年の子どもへの給与や、勤務実態があいまいな場合は要注意です。
税務上のポイントは、「実際に労務提供があるか」「給与額が相当か」「契約や記録が残っているか」 という3点です。
これを満たさないと、支払った給与は「必要経費」として認められません。
条件を満たせば節税は可能
結論として、家族従業員への給与支払いは適切に行えば節税効果がある手法です。
特に所得税の累進課税制度を活用して、所得を低い税率帯に分散させられる点がメリットです。
ただし、以下の条件をクリアする必要があります。
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実際に業務を行っていること
家事手伝いや名義貸しではなく、具体的な労務提供が必要 -
給与額が相当であること
同じ業務を外部に依頼した場合と同程度の額 -
契約や証拠があること
雇用契約書、出勤簿、給与明細、振込記録などを残す -
税法上の手続きを行っていること
個人事業主の場合は「青色事業専従者給与」、白色申告は「事業専従者控除」のルールを遵守
家族給与が節税になる仕組み
家族に給与を支払うと節税効果がある理由は、「所得分散」による累進課税の軽減効果です。
所得分散の仕組み
所得税は累進課税制度を採用しており、所得が増えるほど税率が上がります。
例えば、以下のようなケースを考えます。
| パターン | 所得額 | 所得税率(例) | 税額 |
|---|---|---|---|
| 社長1人で800万円所得 | 800万円 | 約23% | 約184万円 |
| 社長600万円 + 妻200万円 | 600万円(20%) + 200万円(5%) | 約120万円 + 約10万円 | 合計約130万円 |
→ この例では、家族に給与を支払うことで税額が約54万円減少します。
社会保険料の影響
さらに、給与を受け取る家族が社会保険に加入する場合、将来の年金受給額や健康保険の保障が増えるメリットもあります。
ただし、加入義務や保険料負担も増えるため、総合的に判断する必要があります。
家族に給与を払うケース別の節税効果と注意点
ケース1:配偶者に給与を支払う場合
メリット
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所得分散による所得税・住民税の軽減
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青色申告の「青色事業専従者給与」制度を使えば、支払った給与を全額経費にできる(要事前届出)
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社会保険加入条件を満たせば、将来の年金額増加
注意点
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実際に事業に従事していることが必須
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支払う給与額は仕事内容と労働時間に見合った額にする
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パート扱いでも、タイムカード・業務日誌など証拠を残す
節税シミュレーション例
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年間事業所得:800万円
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配偶者に月15万円の給与(年間180万円)を支払う場合
→ 課税所得が620万円に減少し、所得税と住民税の合計が約35万円軽減されるケースあり。
ケース2:高校生以上の子どもに給与を支払う場合
メリット
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アルバイトとして実際の業務を行えば、給与として経費化可能
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子ども側の所得が103万円以下なら、所得税は非課税(扶養控除も維持可能)
注意点
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実際の業務内容が明確であること(例:事務補助、SNS運用、配達など)
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中学生以下は労務提供の実態を証明するのが難しく、否認されやすい
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高校生でも勤務時間や業務内容が実態と合わない高額給与は不可
節税シミュレーション例
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年間事業所得:700万円
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高校生の子どもに月5万円の給与(年間60万円)
→ 課税所得が640万円に減少し、所得税・住民税で約10万円節税。
ケース3:大学生の子どもをアルバイトとして雇う場合
メリット
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専門知識やスキル(例:動画編集、Webデザイン)を活かせる
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外注費の代わりに給与として経費化可能
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扶養控除や社会保険の加入要件を調整しやすい
注意点
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年間所得が103万円を超えると扶養控除が外れる
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130万円を超えると健康保険の扶養からも外れ、保険料負担が発生
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外部の相場を参考にして給与額を設定する
ケース4:両親や義両親を雇用する場合
メリット
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業務経験を活かせる(事務・経理・顧客対応など)
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老後の生活費支援と節税を兼ねられる
注意点
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実態のない給与は贈与とみなされ、贈与税課税の可能性
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年金受給者の場合、給与額によって年金が減額されることがある
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社会保険の加入条件にも注意
ケース5:家族を役員として登記し役員報酬を支払う(法人の場合)
メリット
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法人税の課税所得を減らせる
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役員報酬は原則として損金算入可能(定期同額給与の要件を満たす場合)
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家族間で資産形成を分散できる
注意点
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役員報酬額は株主総会や取締役会の議事録で決定し、適正額にする
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法人の場合、青色事業専従者給与のような事前届出制度は不要だが、税務調査で勤務実態を問われる可能性大
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社会保険加入義務が発生する場合が多い
家族給与の節税効果を最大化するための手順と注意点
1. 事前の制度確認と届出
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個人事業主の場合
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家族に給与を支払うには「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要
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提出期限は、その年の3月15日(開業初年度は開業から2か月以内)
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法人の場合
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事前届出は不要だが、役員報酬は「定期同額給与」の要件を満たす必要がある
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株主総会や取締役会の議事録で正式決定し、変更は原則事業年度の途中では不可
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2. 業務内容と役割の明確化
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実際に家族が行う業務をリスト化
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仕事内容に応じて給与額を設定
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高額すぎる給与は否認リスクが高まるため、同業他社やアルバイト相場を参考にする
例:業務内容と時給目安(東京都の場合)
| 業務内容 | 時給目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 一般事務補助 | 1,200円 | 書類作成・整理 |
| SNS運用・更新 | 1,500円 | 投稿作成・分析 |
| 営業資料作成 | 1,800円 | Word・Excel・PowerPointスキル必須 |
| 動画編集 | 2,000円 | 専門ソフト使用 |
3. 証拠書類の整備
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タイムカードや出勤簿
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出勤日・労働時間・業務内容を記録
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業務日誌
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日ごとの作業内容を簡単にメモ
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支払い証拠
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給与は銀行振込で行い、振込明細を保存
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雇用契約書
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家族でも形式的に作成しておくことで説得力が増す
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4. 税務調査対策
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実態のない給与は経費否認+追徴課税のリスク
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調査官は「実際に働いたのか」「給与額は妥当か」を重点的に確認
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複数の証拠書類(契約書・出勤簿・振込明細)を揃えることで安全性UP
5. 社会保険・扶養の影響を確認
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103万円の壁
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所得税がかからない基準
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130万円の壁
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健康保険の扶養から外れる基準(パートタイム除外条件あり)
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106万円の壁
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社会保険の適用拡大により、週20時間以上勤務で加入義務が発生する場合あり
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税金だけでなく保険料負担も含めてシミュレーションすることが重要
6. 給与設定の見直し時期
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年度末や決算期に合わせて見直す
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所得税・住民税・社会保険の3つのバランスを考慮
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法人の場合は事業年度の開始時点で報酬額を決定し、年度途中の変更は原則不可
家族給与は「計画性」と「証拠」がカギ
家族への給与支払いは、正しく運用すれば節税効果と家計の資金繰り改善を同時に実現できます。
しかし、実態がない支払い・相場を無視した高額給与は税務調査で否認され、余計な税金やペナルティが発生する可能性があります。
ポイントは次の3つです。
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事前届出や手続きを忘れない(個人事業は青色事業専従者給与届出、法人は役員報酬決定手続き)
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業務内容・給与額の妥当性を証明できる書類を残す
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税金だけでなく社会保険・扶養の影響も含めてシミュレーション
節税効果を持続させるコツ
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年度ごとに給与額や業務内容を見直す
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法改正や社会保険制度の変更にも敏感になる
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節税目的だけでなく、実際の業務効率化・家族のスキル活用という観点を持つ
失敗例から学ぶ
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届出を忘れた → 給与が全額否認される
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仕事をしていない家族に給与 → 架空経費と判断され追徴課税
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給与額が相場を大きく超える → 一部否認のリスク
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現金手渡しで証拠がない → 税務署から実態なしと判断されやすい
行動ステップ(まとめ)
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業務内容を決めて給与額を算定
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必要な届出・議事録を作成
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契約書・タイムカード・振込記録を整備
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社会保険・扶養への影響を確認
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年度ごとに見直し
最後に
家族給与の活用は、正しいルールのもとで行えば税負担を減らし、資金を家族内に循環させる強力な手段です。
しかし、節税効果だけに目を奪われると、制度違反や予期せぬ負担増の落とし穴に陥ります。
必ず税理士や社労士と相談しながら、自社に合った方法で活用しましょう。

