一人会社でも社宅制度は使える
会社を設立した経営者が「法人の節税策」としてまず検討したい制度のひとつが社宅制度です。
一般的には社員向けの福利厚生の一環と考えられていますが、実は役員や一人会社の社長でも利用可能です。
社宅制度を適切に活用すれば、
- 住宅費の自己負担を大幅に減らす
- 会社の経費として家賃を計上できる
- 所得税・住民税の節税ができる
という3つのメリットを同時に享受できます。
特に、一人会社の経営者にとっては、会社と個人の両方のキャッシュフローを改善できる強力な手段になります。
多くの経営者が見落としている「社宅制度の節税効果」
社宅制度は大企業では一般的ですが、中小企業や一人会社では制度自体を導入していないケースが多いのが現実です。
その理由としては、
- 「役員や社長は対象外だと思っていた」
- 「手続きや計算が複雑そう」
- 「税務調査で否認されるのではと不安」
といった誤解や不安が挙げられます。
実際には、税法上のルールに沿って運用すれば、一人会社でも合法的に社宅制度を活用可能です。
しかも、正しく設計すれば、毎月の住宅費負担を半分以下に抑えられる場合もあります。
社宅制度は一人会社の経営戦略にも有効
一人会社で社宅制度を導入する最大のポイントは、「役員社宅」という形で運用することです。
役員社宅の制度を整え、家賃の一部を個人負担とし、残りを法人経費として処理することで、
- 法人の利益を圧縮し法人税を削減
- 個人の課税所得を減らし所得税・住民税を削減
と、法人・個人の双方で節税効果が発生します。
ただし、節税効果を最大化するためには、
- 社宅制度の社内規程を作る
- 家賃計算を税務上のルールに沿って行う
- 契約や領収書の管理を適切に行う
といった正しい運用が不可欠です。
一人会社でも社宅制度が使える仕組み
1. 社宅制度の基本構造
社宅制度とは、会社が住宅を借り上げ(または所有し)、社員や役員に貸与する制度です。
給与の一部を住宅提供という形に置き換えることで、福利厚生や税負担軽減を実現します。
法人が住宅を借り上げた場合、
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法人が大家に家賃を支払う
-
役員(または従業員)が家賃の一部を会社に支払う
-
差額は法人の福利厚生費などの経費として計上可能
という流れになります。
2. 税務上の取り扱い(役員社宅の場合)
一人会社での社宅制度は「役員社宅」として扱われます。
国税庁は役員社宅について、本人から徴収すべき家賃額(役員負担額)の計算式を定めています。
(1)小規模住宅(延床面積132㎡以下)の場合
以下の計算式で求めた金額が役員の負担額の目安となります。
役員負担額(目安) = (固定資産税の課税標準額 × 0.2%)+12円×延床面積(㎡)+敷地面積×3円
この金額を役員から徴収すれば、差額は課税されず、法人の経費として認められます。
(2)豪華住宅(132㎡超)の場合
計算式が異なり、固定資産税評価額や時価家賃相当額を基に算定します。
一人会社で豪華住宅を社宅にする場合は、税務署から「経済的利益」として課税されやすいため、慎重な設計が必要です。
3. 一人会社が社宅制度を導入するメリット
-
法人の経費計上が可能
→ 家賃の大部分を法人負担にできるため、法人税を軽減できる -
個人の所得税・住民税を削減
→ 役員の給与を減らして家賃補助に置き換えることで課税所得が減る -
福利厚生の一環として正当性が高い
→ 社内規程を整えれば税務署にも説明しやすい
4. 節税効果のイメージ
例えば、月額20万円のマンションを社宅として利用した場合(小規模住宅扱い・役員負担額2万円と仮定)
-
会社負担分:18万円 → 法人経費として計上(法人税率30%なら年間約64.8万円節税)
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個人負担分:2万円 → 給与から天引き、課税所得減少(個人税率20%なら年間約4.8万円節税)
合計で年間約70万円の節税効果が見込めます。
5. 注意すべき税務リスク
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役員負担額が低すぎると「経済的利益」として給与課税される
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社宅制度を形だけ導入すると、税務調査で否認される可能性
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高額すぎる家賃や豪華すぎる住宅は福利厚生として認められにくい
一人会社で社宅制度を導入する手順と運用方法
1. 社宅制度導入の流れ
一人会社が役員社宅を導入するには、以下の手順を踏むのが基本です。
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社宅規程の作成
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「社宅の貸与対象」「家賃負担割合」「契約方法」などを明文化
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税務署からの質問にも答えられるよう、書面で残す
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物件の契約形態を決定
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会社名義で賃貸契約(大家との直接契約)
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法人が役員から物件を借り上げる(転貸)形式も可だが、やや手間
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家賃計算(役員負担額の算定)
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国税庁の計算式に基づき、役員の負担額を決定
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給与からの天引き設定
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役員の給与から毎月天引きし、会社に入金
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領収書・契約書の保管
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賃貸契約書、固定資産税評価証明書、家賃計算根拠をセットで保管
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2. 社宅規程の記載例(抜粋)
以下は実際に使える簡易的な社宅規程のサンプルです。
第○条(目的)
当社は、役員および従業員の住宅費負担軽減と福利厚生の向上を目的として、社宅制度を設ける。第○条(対象者)
社宅の貸与対象は、当社の役員および正社員とする。第○条(家賃負担)
社宅の使用者は、国税庁の定める計算式により算定した額を毎月負担する。第○条(契約形態)
社宅は会社名義で契約することを原則とする。第○条(管理)
社宅に関する契約書、領収書、固定資産税評価証明書は総務部が保管する。
3. 物件契約の実務
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会社名義で契約する場合
→ 法人として契約、家賃は法人が直接支払う -
個人契約から転貸する場合
→ 役員が契約し、法人が借り上げ、役員へ貸与する形式
※ 転貸の場合は賃貸契約書に「転貸可」の記載が必要
4. 家賃計算の具体例
条件
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延床面積:80㎡
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固定資産税課税標準額:2,000万円
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敷地面積:100㎡
計算
役員負担額 =(2,000万円 × 0.2%)+(80㎡ × 12円)+(100㎡ × 3円)
= 40,000円 + 960円 + 300円
= 41,260円
→ この場合、役員負担額は月額約4.1万円となり、家賃が15万円なら差額の約10.9万円は法人経費。
5. 節税効果の試算
項目 | 法人経費計上額 | 法人税軽減効果(30%想定) | 個人所得減少効果(20%想定) | 合計節税額 |
---|---|---|---|---|
社宅利用 | 10.9万円/月 × 12か月 | 約39.24万円 | 約9.9万円 | 約49.14万円 |
6. 運用時の注意点
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規程・契約・計算の3点セットを整備
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高額物件は「福利厚生目的」と説明できる理由が必要
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家賃の一部は必ず役員から徴収し、給与課税回避
一人会社で社宅制度を活用するための実践ステップ
1. 導入の全体ステップ
一人会社で社宅制度を導入する場合、以下の流れで進めるとスムーズです。
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社宅利用の目的を明確化
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節税効果、福利厚生、住宅コスト削減のどれを重視するか決める
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物件選び
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高額・豪華すぎない適正家賃の物件を選定
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契約形態の決定
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会社名義で契約するか、個人契約から転貸するかを選ぶ
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社宅規程の作成
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国税庁のルールに沿った家賃計算式を明記
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家賃計算と役員負担額の設定
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固定資産税評価額や延床面積を元に計算
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給与天引きと経理処理
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家賃の一部を給与から天引きし、法人経費として計上
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証憑保管と運用ルールの維持
-
契約書・評価証明書・計算根拠を保存し、定期的に見直し
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2. 導入時のチェックリスト
チェック項目 | 内容 | 対応状況 |
---|---|---|
社宅規程を作成したか | 国税庁の計算式を明記し、社内承認済みか | □ |
家賃負担額を計算したか | 固定資産税評価額や延床面積を使用 | □ |
契約形態を決定したか | 会社名義or転貸形式 | □ |
給与天引き設定済みか | 役員負担額を毎月徴収 | □ |
証憑を保管しているか | 契約書・評価証明書・計算書 | □ |
3. 失敗事例と回避方法
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失敗①:役員負担額をゼロにした
→ 給与課税され、節税効果が消滅。必ず国税庁式で計算。 -
失敗②:高額すぎる社宅
→ 福利厚生として認められず、経費否認リスク。家賃は適正範囲内に。 -
失敗③:証憑の欠如
→ 税務調査で説明できず否認。契約書・計算根拠は必ず保存。
4. 実践ポイントまとめ
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社宅制度は一人会社でも合法的に利用可能
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家賃の一部は必ず役員から徴収する
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規程・契約・計算根拠の3点セットを整備することで税務リスクを低減
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高額物件や豪華社宅は避け、適正な家賃設定を心がける
まとめ
一人会社でも社宅制度を活用すれば、節税と住宅コスト削減を同時に実現できます。
重要なのは、国税庁の計算式を遵守し、必要書類を整備しておくことです。
初期準備を丁寧に行えば、税務署からも安心される制度として運用できます。