法改正の波と経営者の新たな課題
近年のデジタル化推進に伴い、会計・税務の現場でも大きな制度変更が行われています。その代表格が**電子帳簿保存法(電帳法)**です。
特に、電子取引データの保存方法が厳格化されたことで、個人事業主や中小企業の経営者にとって「法律遵守」と「経理効率化」が急務となっています。
しかし、ここで注目すべきなのは、単なる法令対応にとどまらず、電子帳簿保存法の活用を通じて節税につなげる方法があるということです。
本記事では、電子帳簿保存法の基本から、節税に直結する活用術まで、実務目線で徹底解説します。
対応が遅れると節税どころかペナルティの可能性も
電子帳簿保存法は、これまで紙での保存が当たり前だった請求書・領収書・契約書などを、電子データで保存できるようにする制度です。
ただし、単にスキャンやPDF化すればよいわけではなく、**保存要件(タイムスタンプ、検索機能、改ざん防止措置など)**を満たす必要があります。
もし要件を守らずに保存してしまうと、青色申告特別控除65万円が適用できなくなる可能性や、税務調査で経費が否認されるリスクがあります。
つまり、「やらなきゃいけないから対応する」という消極的姿勢では、結果的に損をするかもしれないのです。
電帳法対応は「コスト」ではなく「投資」
電子帳簿保存法の正しい運用は、単なるコンプライアンス対応にとどまりません。
経理業務の効率化・ペーパーレス化・会計精度の向上を通じて、節税効果を最大化できるのです。
特に次の3つのポイントを押さえることで、法令遵守と節税を同時に実現できます。
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クラウド会計ソフトの活用で経理の自動化と精度向上
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証憑管理の一元化で経費計上漏れを防止
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経費証拠の電子保存で税務調査対策と節税効果を両立
理由①:経理効率化が経費計上の精度を高める
電子帳簿保存法対応では、領収書や請求書を紙で保管する代わりに、スキャンや電子データとして保存します。
このプロセスをクラウド会計ソフトや証憑管理サービスと連動させることで、手入力の手間が大幅に削減され、記帳ミスや経費漏れが防げます。
節税につながるポイント
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経費漏れを防ぐことで、課税所得を減らせる
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経理担当者の作業時間を削減し、人件費を抑えられる
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書類の紛失リスクを減らし、税務調査時の否認リスクを低減
理由②:改ざん防止措置が税務調査での信頼性を高める
電子帳簿保存法では、タイムスタンプの付与や訂正履歴の保存など、改ざん防止のための措置が求められます。
この要件を満たしていると、税務署からの信頼性が高まり、調査時の対応がスムーズになります。
さらに、データの真正性が担保されているため、「後から作った書類ではない」ことを証明でき、経費の正当性が認められやすくなるのです。
理由③:電子化でペーパーレス&スペース削減=コストカット
紙の書類を保管するには、倉庫やキャビネットなどの物理的なスペースが必要です。
電子保存に切り替えることで、保管コストや郵送費などの間接経費を削減できます。
具体例①:クラウド会計ソフトで自動仕訳+経費漏れ防止
たとえば、freee会計やマネーフォワードクラウドなどのクラウド会計ソフトは、電子帳簿保存法に準拠した証憑保存機能を備えています。
領収書や請求書の画像をスマホで撮影するだけで、日付・金額・取引先を自動読み取りし、仕訳まで自動化できます。
実際の効果
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毎月の経費入力ミスが激減
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経費申請のスピードが向上し、申告時の経費計上漏れがゼロに近づく
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経理作業時間が月10時間削減され、その分を営業や企画に充てられる
具体例②:経費精算アプリとの連携で節税&効率化
交通費や交際費など、小口経費の領収書は紛失しやすく、後からまとめて処理すると漏れが発生します。
経費精算アプリ(例:Staple、Dr.経費精算)を使えば、その場で撮影・登録ができ、電子帳簿保存法の要件を満たした形で保管可能です。
結果的に、 これまで計上漏れしていた年数万円〜数十万円の経費が、しっかり申告に反映されるようになります。
具体例③:契約書・請求書の電子保存で郵送費&保管費削減
取引先との契約書や請求書を電子データで受け取り、電子署名付きPDFで保管すれば、郵送費や紙代、印刷代が削減できます。
さらに、電子契約サービス(クラウドサイン、DocuSignなど)を使えば、電子帳簿保存法の要件も満たせます。
年間コスト削減の試算例(従業員10名規模の企業)
| 項目 | 年間削減額 |
|---|---|
| 郵送費 | 約12万円 |
| 印刷代 | 約6万円 |
| 保管スペース費用 | 約3万円 |
| 合計 | 約21万円 |
このコスト削減分を事業投資や資産形成に回すことで、長期的な収益アップにもつながります。
具体例④:税務調査対策で経費の否認リスクをゼロに近づける
税務調査では、「この領収書はいつ作成されたのか」「本当に取引があったのか」という点がチェックされます。
電子帳簿保存法の要件を満たして保存していれば、日付・作成者・金額・改ざん防止履歴が明確になり、税務署側が否認しにくくなります。
具体例⑤:青色申告特別控除65万円を確実に適用
青色申告特別控除の65万円控除を受けるためには、電子帳簿保存法への対応(e-Taxでの申告や電子帳簿保存の要件遵守)が必須条件のひとつです。
正しく対応することで、節税額は以下のようになります。
節税額シミュレーション(所得税率20%、住民税率10%の場合)
65万円 × (所得税率20%+住民税率10%)= 約19.5万円節税
つまり、対応を怠ると、これだけの節税チャンスを逃すことになります。
電子帳簿保存法対応+節税の実践ステップ
ステップ1:自社の経理フローを洗い出す
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領収書・請求書・契約書など、日常的に発生する証憑の種類と保管方法を把握
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紙保管とデータ保管の割合を確認
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申告時に集計漏れしやすい経費項目を特定(例:交際費・旅費交通費)
ステップ2:対応が必要な電子帳簿保存法の区分を確認
電子帳簿保存法には以下の3つの保存区分があります。自社がどこに該当するかを確認しましょう。
| 区分 | 保存対象 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 電子帳簿等保存 | 会計ソフト等で作成した帳簿・書類 | 改ざん防止、検索機能、見読性確保 |
| スキャナ保存 | 紙の領収書や請求書をスキャンして保存 | 速やかな保存(最長2か月+7営業日以内)、タイムスタンプ付与 |
| 電子取引データ保存 | メールやクラウドで受け取った請求書・領収書 | 改ざん防止、検索要件、正しい保存形式 |
ステップ3:クラウド会計ソフトや経費精算アプリを導入
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おすすめ例:freee会計、マネーフォワードクラウド、弥生会計オンライン
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選び方のポイント:
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電子帳簿保存法の要件に自動対応しているか
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スマホアプリで領収書撮影&仕訳登録が可能か
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e-Tax連携がスムーズか
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ステップ4:社内ルールを整備して運用開始
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領収書や請求書を受け取ったら即日スキャンまたはアップロード
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データ保存時には日付・金額・取引先の記録を必須にする
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経費精算は月末締め、翌月〇日まで申請という期限を設定
ステップ5:節税効果を定期的に検証
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半期ごとに経費計上漏れの有無をチェック
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青色申告特別控除が適用できているか確認
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コスト削減額を試算して、事業投資や資産形成への再投資計画を立てる
まとめ
電子帳簿保存法への対応は、単なる義務ではなく、経費漏れ防止・節税・業務効率化・コスト削減という複数のメリットをもたらします。
今後さらにデジタル化が進む中で、早めに対応しておくことで税務リスクを減らし、手残り資金を最大化できます。

