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節税目的で保険に入るのは本当に得か?法人保険の課税ルール2025年版

はじめに

2025年も、中小企業の節税対策として「法人保険」に注目が集まっています。特に、経営者の多くが「保険に入っておけば節税になる」と漠然と考えていることも少なくありません。

しかし、本当に法人保険は「得」なのでしょうか?

税制改正を経て、保険による節税スキームは年々厳しく制限されています。「なんとなく節税になる」という誤解のまま加入してしまうと、後から高額な税金を課されるリスクもあります。

本記事では、法人保険の最新の課税ルール(2025年版)をもとに、「節税目的で保険に入るのは本当に得なのか?」を税理士の視点からわかりやすく解説します。


法人保険にまつわる3つの誤解

法人保険は多くの経営者に利用されていますが、以下のような誤解が広まっています。

よくある誤解①:保険料はすべて経費になる

→ 実際には、損金算入できる割合が契約内容により異なり、全額経費になるとは限りません。

よくある誤解②:支払保険料=節税額

→ 節税額とは、「保険料 × 法人税率 × 損金算入割合」であり、全額が税金として戻るわけではありません。

よくある誤解③:解約返戻金があるから安心

→ 解約返戻金には課税が発生するため、うまく設計しないと「税金の繰延べ」にすぎないケースも。

こうした誤解に基づいて保険に加入してしまうと、思わぬ「損」や「後悔」を生む可能性があります。


法人保険は「得になることもあるが、注意点が多い」

結論から言えば、法人保険は正しく活用すれば節税効果が見込める一方で、

  • 課税ルールの理解不足

  • 解約時の重課税

  • 資金繰りの悪化

など、リスクも高くなります。

つまり、「法人保険=節税に有利」というシンプルな考え方は、2025年現在では通用しなくなっています。


法人保険の課税ルールが複雑になっているから

2025年時点での法人保険に関する課税ルールは、かつてに比べてかなり複雑化しています。

以下では、代表的な保険商品別に損金処理の可否と課税タイミングを整理します。

法人保険の課税ルール一覧(2025年版)

保険の種類 保険料の取扱い 解約返戻金の取扱い 節税効果の有無
定期保険(無解約返戻金型) 全額損金算入可能 解約返戻金なし
逓増定期保険 2020年税制改正により損金算入不可 解約時に益金計上 △(節税困難)
長期平準定期保険 1/2損金、1/2資産計上 解約時に益金計上 △(繰延節税)
養老保険(法人契約) 全額資産計上 解約時に益金 ×(節税目的に不向き)
役員退職金準備保険 商品による 退職金との整合が必要 △(要設計)

※上記は原則。税務調査では「実態」に基づいた否認リスクあり。


税制改正の影響(2020年以降)

  • 2020年の税制改正により、「節税保険」と呼ばれた商品はほぼ封じられた

  • 特に、高額な解約返戻金が短期間で戻る設計の商品は「否認対象」

  • 国税庁の通達により、保険ごとに明確な取扱いルールが定められた

法人保険の税効果が出る仕組みとは?

法人保険の節税効果が期待されるのは、保険料の一部または全部が損金として認められる場合に限ります。損金算入によって課税所得を一時的に減らし、その分の法人税負担を軽減するというロジックです。

節税の基本式(例)

節税効果(概算)= 損金算入額 × 法人税実効税率(約30%)

たとえば、年間保険料が200万円で、50%が損金算入されるとすると:

  • 損金算入額:100万円

  • 節税効果:100万円 × 30% = 約30万円

※ただしこれは「一時的な節税」であり、将来的に益金として戻ってくるケースが多いため、「税金の繰延べ」と捉えるのが正確です。


課税の落とし穴:将来の益金計上が避けられない

法人保険の大半は、将来的に解約返戻金や満期保険金が発生し、それが益金(収益)として課税対象となります。

よくあるケース:中小企業が5年契約で逓増定期保険に加入

項目 数値
年間保険料 200万円
損金算入割合 0%(2025年時点の通達による)
解約返戻金(5年後) 800万円
課税対象 800万円(益金)
法人税(概算) 約240万円(30%と仮定)

節税できないばかりか、解約時に大きな課税負担が発生


具体例①:長期平準定期保険を使った税金繰延べ

ケース:

  • 保険料年額:300万円

  • 1/2損金、1/2資産

  • 契約期間:10年

  • 解約返戻金:2400万円

節税効果の流れ

年度 会計処理 損金 解約返戻金の取扱い
毎年 150万円損金、150万円資産 △節税(繰延べ) なし
解約時 返戻金2400万円を益金計上 × 課税対象(法人税約720万円)

→ 一時的な節税は可能だが、将来必ず重課税される。


具体例②:無解約返戻金型定期保険で「本当の節税」

ケース:

  • 保険料年額:120万円

  • 解約返戻金なし

  • 損金処理:全額損金

→ 節税額:120万円 × 30% ≒ 36万円(毎年)

この場合は返戻金がないため、将来的な益金計上がなく、純粋な損金処理として節税効果が見込める。しかし資産としては残らず、「掛け捨て保険」になる点に注意が必要です。


具体例③:退職金準備としての法人保険活用

役員退職時に支給する退職金の準備手段として、法人保険を活用する方法もあります。

ポイント:

  • 保険金が退職金の原資になる

  • 保険料の損金算入可否は契約内容次第

  • 解約時に保険金を退職金として支給することで、「会社で損金」「役員で課税」の移転が可能

ただし、退職金規程や過大認定リスクなど、税務調査の指摘ポイントになりやすいため要注意です。

法人保険が向いている法人・向いていない法人とは?

節税目的での保険加入が「得」になるかどうかは、企業の財務状況や経営目的によって大きく異なります。

ここでは、法人保険が向いている法人とそうでない法人の典型的な特徴を整理します。

✅ 法人保険が向いている企業

特徴 理由
安定した黒字経営 損金算入による節税メリットを活かしやすい
内部留保を圧縮したい 保険を通じて資産移転・税金繰延べが可能
役員退職金の原資を積み立てたい 保険を退職金準備として活用できる
資金繰りに余裕がある 保険料支払いによるキャッシュアウトに耐えられる

❌ 法人保険が向いていない企業

特徴 理由
赤字または利益が少ない 損金算入しても法人税負担がないため節税効果が出ない
短期間で解約する可能性が高い 解約返戻金に課税 → 節税効果が帳消しになる
資金繰りに不安がある 高額な保険料の継続が難しくなる
税制や保険商品に詳しくないまま契約する 意図しない課税や損失を被るリスクが高い

法人保険を使うかどうかの判断ポイント

法人保険の活用を検討する際は、以下の観点から総合的に判断することが重要です。

✅ 判断チェックリスト

  • 今年度の利益は出ているか?

  • 今後数年間も黒字経営が見込まれるか?

  • 保険料を払っても資金繰りに問題はないか?

  • 将来、退職金や事業承継のための資金が必要か?

  • 節税の効果と将来の課税コストを比較したか?

すべて「はい」であれば、法人保険の導入を検討する価値があります。


税理士からのアドバイス:加入前に必ず確認したい3つのこと

税務の専門家として、以下の3点は法人保険加入前に必ずチェックすべきポイントです。

① 保険料の損金算入割合と税務通達の確認

  • 商品によって損金処理可能な割合が異なる

  • 2020年の改正後、「解約返戻率50%以上の商品」は原則資産計上

  • 損金処理を誤ると税務調査で否認されるリスクあり

② 解約返戻金の時期と金額

  • 将来の返戻金が益金になることを必ずシミュレーション

  • 事業承継や退職金支給との整合性があるかチェック

③ 本当に節税目的で使うべきかの再確認

  • 「節税になるから入る」のではなく、

  • 「経営目的(退職金・保障・事業承継)に合っているから入る」が基本姿勢


法人保険の税務対応に強い税理士に相談を

法人保険の活用には、会計と税務の両方の知見が不可欠です。

特に、

  • 保険商品を扱う保険営業マン

  • 税務対応を専門にしない会計事務所

だけでは、税務リスクを見落としていることも多くあります。

必ず、法人保険に強い税理士に相談し、「保険契約書+試算表+決算予測+キャッシュフロー」をもとにシミュレーションすることをおすすめします。

今すぐできる!法人保険を活用するための行動ステップ

「節税目的で保険に入るのは本当に得か?」という問いに対する答えは、**「場合による」**というのが正直なところです。

では、失敗せずに上手に活用するにはどうすれば良いのでしょうか?
以下に、経営者がとるべき具体的なステップをまとめました。


✅ ステップ①:保険の契約内容を見直す

すでに保険に加入している場合は、まず以下の点をチェックしましょう:

  • 契約している保険の種類(定期/終身/養老 など)

  • 解約返戻金の有無とスケジュール

  • 保険料の損金算入割合

  • 保障内容と事業の整合性

「税務上どのように処理されているか」が不明な場合は、税理士または保険会社に問い合わせて確認を。


✅ ステップ②:キャッシュフロー計画と連動させる

保険は原則として長期契約かつキャッシュアウトが続く商品です。
以下のようなキャッシュフローへの影響も必ず考慮してください。

  • 保険料の毎年の支出額

  • 解約返戻金の回収時期と金額

  • 法人税の支払タイミング

→ 「資金繰りが悪化してやむなく解約→課税されて赤字に転落」というケースも実際にあります。


✅ ステップ③:税務リスクを想定したシミュレーションを実施

節税を狙った保険活用が「税務調査で否認される」事例も増えています。

税務リスクに強い専門家に依頼して、シミュレーションを作成するのが最も安全な対応です。

おすすめの資料:

  • 保険契約書

  • 解約返戻金推移表

  • 過去3年分の決算書

  • 今後の利益予測(中期経営計画)

これらを用いて、「節税メリット vs 将来課税リスク」の見える化を行いましょう。


節税目的の保険は「賢く選んで慎重に活用」するのが鉄則

2025年の法人保険に関する課税ルールは、年々厳格化しています。
「とりあえず節税になるから」という安易な理由で加入するのは危険です。

しかし、以下のような条件を満たす場合には、節税+保障+資金準備を同時に実現できる優れた手段となりえます。

  • 黒字経営が安定して続く見込みがある

  • 保険料の支払いに余裕がある

  • 退職金や事業承継資金の準備をしたい

  • 信頼できる専門家と一緒に設計できる

法人保険は「節税商品」ではなく、中長期の経営戦略の一部として活用するべき金融ツールなのです。

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