医療費控除は節税のチャンス
「医療費控除」と聞くと、「病院代が安くなる制度」と誤解されがちですが、実際は確定申告で支払った医療費の一部が所得控除され、結果として税金が軽くなる制度です。
個人事業主や中小企業経営者にとっては、家族全員分の医療費もまとめて申告できるため、思わぬ節税につながる可能性があります。
さらに、似た制度として「セルフメディケーション税制」もあり、こちらは市販薬購入でも使える制度です。
本記事では、医療費控除とセルフメディケーション税制の対象になるもの・ならないものの違いをわかりやすく解説し、確定申告時に最大限活用する方法を紹介します。
意外と多い「対象外」支出と制度の混同
医療費控除を使う際、多くの人が以下のような誤解をしています。
-
誤解①:病院で払ったお金は全て控除対象になる
-
誤解②:ドラッグストアで買った薬は全部対象になる
-
誤解③:医療保険の自己負担分も控除できる
-
誤解④:セルフメディケーション税制は医療費控除と併用できる
実際には、対象外となる支出や、同時に使えない制度があり、申告の際に間違えると控除額が減ったり、最悪の場合は税務署から修正を求められることもあります。
このようなトラブルを避けるためには、対象と非対象を正確に区別し、セルフメディケーション税制との違いを理解する必要があります。
制度の違いと対象範囲を理解して申告することが重要
-
医療費控除は、病気やケガの治療・予防に直接関係する医療費が対象。病院・歯科・薬局などで支払った自己負担分が基本。
-
セルフメディケーション税制は、健康診断や予防接種を受けている人が対象で、スイッチOTC医薬品購入費を控除できる制度。
-
両制度は同じ年に併用できないため、どちらか一方を選ぶ必要がある。
-
どちらを選ぶかは、その年の支出額と控除額を比較して決定するのがベスト。
制度ごとの目的と適用条件が異なる
医療費控除の目的
医療費控除は、高額な医療費負担を軽減し、生活への影響を最小限に抑えることを目的としています。
年間10万円(または総所得金額等の5%)を超える自己負担の医療費がある場合に適用されます。
適用条件(概要)
-
自分や生計を一にする家族のための医療費であること
-
治療・療養のための費用であること
-
年間の医療費が10万円または所得の5%を超える部分
セルフメディケーション税制の目的
セルフメディケーション税制は、市販薬による自己治療を促進し、医療機関の負担を減らすことを目的にしています。
対象は「スイッチOTC医薬品」(医療用から市販に切り替わった薬)で、年間12,000円を超えた部分が控除されます(上限88,000円)。
適用条件(概要)
-
健康診断・予防接種・がん検診などを受けていること
-
対象医薬品を購入していること
-
医療費控除とは同時適用不可
医療費控除・セルフメディケーション税制の申告手順
1. 領収書・レシートを集める
-
医療費控除:病院・薬局の領収書、通院交通費の記録(公共交通機関の領収書が望ましい)
-
セルフメディケーション税制:対象品マークのあるスイッチOTC医薬品のレシート(品名・金額・購入日が必要)
注意:確定申告書提出時に領収書の添付は不要ですが、5年間の保管義務があります。
2. 医療費控除明細書の作成
国税庁の「医療費集計フォーム」または会計ソフトを使い、日付・医療機関・支払額を一覧にまとめます。
3. 必要書類を用意
-
医療費控除:医療費控除明細書、通院交通費の記録、医療保険の給付額が分かる書類
-
セルフメディケーション税制:健診結果証明書、レシート
4. 確定申告書に記載
e-Taxまたは紙申告で申告書を作成し、所得控除の欄に対象額を記入します。
よくある落とし穴と注意点
1. 健康診断費用を単独で計上してしまう
健康診断は原則対象外。ただし、診断結果を受けて治療した場合の再診料は対象になります。
2. 美容目的の治療を計上
美容整形、ホワイトニング、レーシック(視力改善目的)は対象外。
治療目的でない支出は控除できません。
3. 通院の自家用車ガソリン代を計上
自家用車利用の燃料費や駐車場代は対象外。
公共交通機関の運賃が原則です(例外的にやむを得ない場合はタクシー代可)。
4. 医療保険給付金との二重計上
医療保険からの入院給付金や手術給付金は、支払った医療費から差し引く必要があります。
制度活用のコツ
-
毎月レシートを整理する
年末にまとめるより、月ごとに家計簿や会計ソフトで整理するとスムーズ。 -
制度の有利不利をシミュレーション
医療費控除とセルフメディケーション税制は併用不可。年末時点で有利な方を選択。 -
家族分もまとめて申告
生計を一にする配偶者や子どもの医療費も合算可能。 -
スイッチOTC医薬品はマークを確認
ドラッグストアで対象品マークをチェックしてレシート保管。
まとめ
-
医療費控除は病院・薬局での治療費や通院交通費が対象
-
セルフメディケーション税制は市販薬(スイッチOTC医薬品)購入が対象
-
両制度は併用不可、金額や状況に応じて有利な方を選択
-
領収書・レシートの整理と控除額の計算が成功のカギ