なぜ経営者は節税相談をするのか
個人事業主や中小企業の経営者にとって、節税は「合法的に手元資金を増やす手段」です。
しかし、インターネットや書籍にある情報は一般論が多く、自分の事業や状況に合った具体策がわからないケースが少なくありません。
税理士のもとには、年間を通して多くの節税相談が寄せられますが、その中には共通するパターンがあります。
今回は、実際によく受ける節税相談ベスト5と、その回答例をわかりやすく解説します。
間違った節税対策の落とし穴
節税対策は正しく行えば効果的ですが、間違った方法を選ぶと次のようなリスクがあります。
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税務調査で否認され、追徴課税や延滞税が発生する
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短期的には効果があっても、長期的には資金繰りを悪化させる
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必要な投資や支出が抑制され、事業成長が阻害される
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将来の相続や事業承継に不利になる
特に「とにかく経費を増やす」「赤字にする」だけの対策は、長期的に見て逆効果になる場合が多いです。
税理士が提案するのは、法律に沿った「戦略的な節税」です。
節税は「節税+資金計画+将来設計」の三位一体で考えるべき
節税効果を最大化するには、以下の3つの視点が必要です。
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節税効果が法律的に安全であること(合法性)
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資金繰りやキャッシュフローにプラスになること(資金計画)
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将来の事業計画や相続対策と整合していること(将来設計)
つまり、単なる支出増ではなく、経営にプラスになる形で税負担を抑えることが重要です。
なぜよくある相談パターンが重要なのか
税理士が受ける相談は、多くの経営者が同じ悩みを抱えている証拠です。
同じような状況にいる他の経営者が選んだ方法や、その結果を知ることで、自社に適した節税策を見つけやすくなります。
また、よくある相談には税務署が注目するポイントも含まれており、正しい運用を知ることがリスク回避にもつながります。
ベスト5の概要
以下が、税理士がよく受ける節税相談の上位5つです。
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設備投資や経費計上のタイミング調整
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役員報酬・賞与の設定と見直し
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法人保険や共済制度の活用
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家族を役員・従業員にする所得分散
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法人化による税率コントロール
この順番で、それぞれの具体例と回答例を解説していきます。
第1位:設備投資や経費計上のタイミング調整
よくある相談内容
「今年は利益が多く出そうなので、経費を増やして税金を減らしたい。何を買えばいい?」
「年度末に機械や備品を買えば節税になると聞いたが、本当か?」
税理士の回答例
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設備投資や経費計上は、事業に必要な支出であることが前提
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固定資産の購入は減価償却のルールに従うため、全額が今年の経費になるとは限らない
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少額減価償却資産の特例(30万円未満)や中小企業投資促進税制を活用できるか確認
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経費の「前倒し」は資金繰りへの影響も考慮する必要あり
ポイント解説
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30万円未満の備品なら、取得した年度に全額経費化可能(中小企業の場合)
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IT投資や省エネ設備は、特別償却や税額控除の対象になる場合がある
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支払時期ではなく、引渡し日や検収日で計上時期が決まるため注意
回答の方向性
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「節税効果」と「事業成長への貢献」を両立させる支出を選ぶ
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単なる税額減ではなく、長期的な売上・利益増につながる投資を優先する
第2位:役員報酬・賞与の設定と見直し
よくある相談内容
「役員報酬を増やすと節税になるの?」
「決算前にボーナスを出したほうがいい?」
税理士の回答例
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役員報酬は原則、事業年度開始から3か月以内に決めた金額を1年間固定する必要がある
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期中で金額を変更すると、その差額は損金(経費)にできない場合がある
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役員賞与は損金算入の条件が厳しく、事前確定届出給与制度を使わないと節税にならない
ポイント解説
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所得税率と法人税率のバランスを見て、個人と法人のトータル税負担を最小化する
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役員報酬を増やしすぎると、社会保険料負担が増えるため総合判断が必要
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役員賞与は「事前に税務署へ届出」+「届出通りの支給」が条件
回答の方向性
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毎年決算前に「法人税」と「所得税+社会保険料」の総額試算を行う
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役員報酬・賞与は、税額・社会保険料・将来の年金額をトータルで最適化する
第3位:法人保険や共済制度の活用
よくある相談内容
「法人保険に入ると節税できると聞いたが本当?」
「小規模企業共済は経営者でも入れる?」
税理士の回答例
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法人保険は契約形態によって損金算入できる割合が異なる
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解約返戻金が将来発生するタイプは、解約時に益金計上が必要
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小規模企業共済は掛金全額が所得控除になり、将来の退職金準備にも使える
ポイント解説
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法人保険の節税効果は「支払時の損金算入」だけでなく、「解約時の資金活用」が重要
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共済制度(小規模企業共済・倒産防止共済など)は、掛金控除+資金準備が同時に可能
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税務署も法人保険契約には注視しており、契約目的や内容の適正性が求められる
回答の方向性
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保険は短期の節税ではなく、中長期の資金戦略として利用する
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共済は税制優遇+資金繰り安定化の両面から導入を検討する
第4位:家族を役員・従業員にする所得分散
よくある相談内容
「妻や子どもに給料を払えば節税になる?」
「どこまで家族を給与対象にできる?」
税理士の回答例
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家族への給与支払いは、実際に労務提供があり、相当額であることが条件
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個人事業主は「青色事業専従者給与制度」を使えば、適正額を全額経費にできる
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法人の場合も同様に、勤務実態と仕事内容に応じた給与額であれば損金算入可能
ポイント解説
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実態のない給与や過大な給与は、税務調査で否認されるリスク大
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所得分散によって、家族全体の所得税率を下げることが可能
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社会保険の扶養条件や年金受給額にも影響するため総合的な検討が必要
回答の方向性
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家族への給与は「雇用契約書」「勤務日報」など証拠書類を整える
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支払額は仕事内容や勤務時間に見合った水準にする
第5位:法人化による税率コントロール
よくある相談内容
「個人事業から法人にすると節税になる?」
「売上や利益がどのくらいなら法人化したほうがいい?」
税理士の回答例
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個人の所得税率は累進課税で最大45%+住民税10%だが、法人税は実効税率約30%前後
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利益が一定額を超えると、法人化によって税率を下げられる
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社会保険料負担や法人維持コストも加味する必要あり
ポイント解説
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一般的に、課税所得が500〜800万円を超えるあたりが法人化検討の目安
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法人化すると経費計上の幅が広がり、退職金制度や決算期の調整も可能
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設立費用や毎年の法人維持コスト(会計・税務顧問料など)も事前計算が必要
回答の方向性
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現状と将来の利益見込みを試算し、法人化のメリットとデメリットを数値で比較する
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節税だけでなく、資金調達や事業拡大の視点からも判断する
節税は「単発」ではなく「戦略」
節税は単発のテクニックではなく、事業全体の資金計画と連動させることが重要です。
今回紹介した5つの相談は、いずれも多くの経営者が直面するテーマですが、最適解は事業内容・利益規模・将来計画によって異なります。
税理士と定期的に相談しながら、自社に合った節税戦略を構築しましょう。

