年度末の税金対策は「事前準備」がカギ
中小企業にとって、年度末は単なる決算期ではありません。
法人税・消費税・地方税などの負担を最小限に抑え、資金繰りを安定させるための税金対策の最終チャンスです。
特に、年度末の直前や決算確定前に行える対策は多く、計画的に進めることで数十万円〜数百万円の節税につながるケースもあります。
しかし、「やれることは全てやった」と思っていても、見落としている項目が意外と多いのが実情です。
この記事では、中小企業が年度末に必ず見直すべき税金対策の7つの項目を、チェックリスト形式で解説します。
なぜ中小企業は税金対策を見落とすのか
年度末に税金対策が後手に回る背景には、次のような理由があります。
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経理・決算の業務に追われ、戦略的な対策が後回しになる
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「節税=経費を増やすこと」と誤解している
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法改正や税制優遇の最新情報をキャッチできていない
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顧問税理士との打ち合わせが申告直前になってしまう
この結果、
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取れるはずだった控除や優遇措置を逃す
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無駄な納税で資金繰りが悪化する
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翌年度以降の税負担が増える
といったデメリットが発生します。
年度末の7つの見直しで税負担を最小化
中小企業が年度末に必ず確認すべき税金対策は、以下の7項目です。
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役員給与・賞与の見直し
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経費計上の漏れチェック
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固定資産の購入・廃棄タイミング
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節税型保険や共済制度の活用
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交際費・会議費の適正管理
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棚卸資産の評価見直し
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税額控除・特別償却制度の活用
これらを年度末に総点検することで、
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法人税や地方税の負担を抑える
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翌期の資金繰りを安定させる
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税務調査へのリスク対策にもつながる
という3つの効果が期待できます。
理由①:役員給与・賞与の見直しで所得分散と節税を両立
なぜ重要か
役員給与は法人税と所得税の両方に影響するため、適切な設定は年度末の節税効果を大きく左右します。
法人の利益が出すぎて法人税が高額になる場合、役員給与を増額して法人利益を圧縮し、所得を役員個人に移すことで、法人税率と個人の所得税率のバランスを最適化できます。
ただし、役員給与は原則として事業年度開始から3か月以内に決定し、定期同額で支給する必要があるため、年度末時点で変更はできません。その代わりに有効なのが役員賞与の活用です。
具体例
例えば、法人の課税所得が1,000万円のケース。
法人税等の実効税率を30%とすると、税負担は約300万円です。
ここで役員賞与を300万円支給すれば、法人の課税所得は700万円となり、法人税は約210万円に減少します。
項目 | 賞与支給前 | 賞与300万円支給後 |
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課税所得 | 1,000万円 | 700万円 |
法人税等(30%) | 300万円 | 210万円 |
賞与の所得税(個人側) | - | 約60万円(目安) |
合計税負担 | 300万円 | 270万円 |
結果として約30万円の税負担減が可能になります。
行動ポイント
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役員賞与を支給する場合は事前確定届出給与の届け出が必須
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個人の所得税率が高くなりすぎないよう注意
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社会保険料の増加も試算してから決定
理由②:経費計上の漏れチェックで課税所得を減らす
なぜ重要か
年度末に経費計上漏れがあると、課税所得が不必要に大きくなり、法人税・所得税の負担が増えます。特に小規模企業では、経理担当が少人数であるため、領収書や請求書の管理漏れが発生しやすいです。
よくある計上漏れ項目
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未払いの外注費・報酬
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旅費交通費(ICカード利用分やETC明細)
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クレジットカード決済分の経費
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携帯電話・通信費(個人契約分の事業使用割合)
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年末に届いたが未計上の請求書
具体例
例えば、外注費20万円、交通費5万円、通信費3万円の計上漏れがあった場合、合計28万円の経費が未計上。
法人税率30%で計算すると、8.4万円も余計に税金を払うことになります。
行動ポイント
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年度末前に請求書・領収書の棚卸しを行う
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クレジットカード・銀行口座の明細を月別でチェック
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個人立替経費を漏れなく精算
理由③:固定資産の購入・廃棄タイミングで減価償却をコントロール
なぜ重要か
固定資産(機械、車両、パソコンなど)の購入時期は、減価償却費の計上タイミングに直結します。
年度末直前に購入すれば、その年度から減価償却を開始でき、節税効果を早く享受できます。
逆に、使用しなくなった資産を廃棄・売却することで、帳簿価額を一括損金化でき、利益圧縮につながります。
具体例:パソコン購入の場合
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3月決算の企業が、3月20日に30万円のパソコンを購入(耐用年数4年、定額法)
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その年度の減価償却費=30万円 × 0.25 × (12/12)=7.5万円
もし4月に購入すると、その年度は減価償却ゼロとなり、節税効果が1年遅れます。
行動ポイント
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年度末の利益状況を見て、設備投資の前倒しを検討
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少額減価償却資産(取得価額30万円未満)は即時償却制度の活用を検討
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不要資産は年度内に廃棄・売却して損金計上
理由④:節税型保険の活用で利益を平準化
なぜ重要か
利益が大きく出た年度に、法人向けの一定条件を満たす保険に加入することで、保険料を損金計上し、課税所得を圧縮できます。将来解約時に解約返戻金が発生し、その時点で益金算入されるため、利益の繰延効果が期待できます。
節税効果が見込める主な保険例
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逓増定期保険(一定期間で解約返戻率が上がる)
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長期平準定期保険
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定期保険(一定条件付き)
注意点
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2020年以降の税制改正で損金算入できる割合が制限されているため、最新の取扱を確認する必要あり
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将来解約時には益金計上が必要なため、資金計画が重要
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過剰加入は保険料負担が重くなり資金繰り悪化の恐れあり
行動ポイント
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決算前に利益予測を行い、保険加入が有効か検討
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解約時期・返戻率のシミュレーションを税理士と相談
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長期的な資金計画と連動して設計
理由⑤:交際費・会議費の計上で支出を正しく経費化
なぜ重要か
交際費や会議費は、業務に関連する支出であれば経費計上できますが、私的な支出や領収書不備は否認リスクがあります。
特に中小企業では、年間800万円までの交際費が全額損金算入(資本金1億円以下の法人)可能なため、年度末に精査すると節税効果があります。
交際費と会議費の違い
項目 | 交際費の例 | 会議費の例 |
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定義 | 取引先との接待や贈答 | 社内外での会議や打合せ |
金額基準 | 5,000円超の飲食費は交際費になる傾向 | 1人当たり5,000円以下の飲食代 |
損金算入限度 | 年800万円まで全額損金 | 制限なし |
行動ポイント
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領収書に参加者・目的を必ず記載
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会議費扱いできる場合は会議費で計上し限度額枠を温存
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年度末に未計上分を洗い出す
理由⑥:棚卸資産の評価見直しで利益調整
なぜ重要か
棚卸資産(商品・原材料)の評価額は、売上原価に直結します。
評価額を正しく算定することで、過大な利益計上を防ぎ、課税所得を適正化できます。
評価方法の例
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原価法(仕入原価で評価)
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低価法(時価が下落している場合に時価で評価可能)
具体例
在庫の時価が原価よりも10万円下がっていた場合、低価法で評価すれば10万円を損金に算入でき、法人税率30%なら3万円の節税効果。
行動ポイント
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年度末に在庫の棚卸を正確に実施
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傷んだ商品や陳腐化した在庫は評価減を検討
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評価方法は一貫性を持たせる(恣意的変更は否認リスクあり)
理由⑦:税額控除制度の活用で直接税額を減らす
なぜ重要か
税額控除は、課税所得から税額を計算した後に直接税額を減らせる制度で、節税効果が非常に高いです。
適用できる制度を見落とすと、余分に税金を払うことになります。
主な税額控除の例
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中小企業投資促進税制(一定の設備投資で税額控除)
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所得拡大促進税制(給与総額の増加で税額控除)
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研究開発税制(研究費の一部を税額控除)
行動ポイント
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決算前に適用可能な控除制度を洗い出し
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設備投資や人件費増加の計画と連動させる
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申告期限までに必要書類を準備
年度末の税金対策は「早めの計画」がすべて
年度末になって慌てて節税策を探しても、適用できる制度や支出のタイミングが限られてしまいます。
今回紹介した7つのチェック項目は、どれも中小企業が取り組みやすく、かつ効果の大きい節税策です。
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青色申告特別控除の適用
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減価償却の前倒し
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賞与・役員賞与の支給タイミング調整
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節税型保険の活用
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交際費・会議費の精査
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棚卸資産の評価見直し
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税額控除制度の活用
これらを決算1〜2か月前から計画的に実行することで、不要な税負担を抑え、資金繰りの安定につなげられます。
年度末税金対策チェックリスト【実行用】
以下は、中小企業経営者が決算前に確認すべき項目です。
印刷してチェックリストとして活用してください。
項目 | 確認内容 | 実施状況 |
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青色申告特別控除 | 65万円控除の条件を満たしているか | □ |
減価償却前倒し | 購入済み資産の計上漏れはないか | □ |
賞与の支給日 | 支給日を決算期前に設定しているか | □ |
節税型保険 | 利益繰延に有効か試算したか | □ |
交際費・会議費 | 領収書・記録が適正か | □ |
棚卸資産評価 | 評価減の可能性を検討したか | □ |
税額控除 | 適用可能な制度を確認したか | □ |
今すぐできる3ステップ
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税理士と年度末対策ミーティングを設定
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利益予測と納税予定額を確認
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適用できる節税策を優先順位付け
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証拠書類の整備
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領収書・契約書・在庫リストの整理
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会議記録や参加者リストを添付
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資金繰り計画と連動
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節税策による支出の影響を試算
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解約時課税や将来負担を織り込む
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まとめ
年度末の税金対策は「節税額を増やすこと」だけが目的ではありません。
資金繰り・将来計画・税務リスクの3つをバランス良く管理することが、中小企業経営の安定につながります。
今回の7つの項目を毎年のルーティンにすれば、税負担を抑えつつ健全経営を維持できるでしょう。