決算前のラストチャンスを活かせていますか?
決算が近づくと、「少しでも税金を減らしたい」「経費をうまく使えないか」と考える経営者は多いものです。
しかし、節税策には今すぐ取り組めるものと、タイミング的に間に合わないものがあります。
特に決算直前は時間的余裕がないため、誤った判断で逆に税務リスクを高めてしまうケースも少なくありません。
そこで今回は、決算間際でも間に合う節税策と来期以降に回すべき施策を整理してご紹介します。
決算間際の節税は“間に合うかどうか”が分かれ目
節税は計画的に行うのが理想ですが、実務では「決算1〜2か月前に慌てて対策を検討する」こともよくあります。
この時期の課題は次の通りです。
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契約や支払いの時期によっては当期の経費計上ができない
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節税効果があっても、資金繰りに悪影響を与える場合がある
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法定期限や申請期限に間に合わないケースがある
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節税を急ぎすぎて、税務調査で否認されるリスクがある
つまり、節税策は「間に合うもの」と「間に合わないもの」を正しく見極めることが大切です。
決算直前にやるべき節税策の優先順位
決算直前の節税は、以下の3つの視点で優先順位をつけると効率的です。
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即時実行できるもの
契約・支払い・仕訳処理までを当期内に完結できる施策 -
資金繰りへの影響が少ないもの
支出額と節税額のバランスが取れている施策 -
税務上の根拠が明確なもの
税務調査でも説明できる裏付けがある施策
決算間際の節税は“スピード”と“安全性”が重要
決算直前は、通常業務と決算準備が重なり、時間も人手も限られます。
そのため、節税策の選定においては以下の理由からスピードと安全性が重視されます。
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即効性:契約や支払いが即日〜数日で完了するもの
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実行の容易さ:複雑な申請や審査が不要
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税務根拠の明確さ:国税庁の見解や過去の事例で安全性が確認できる
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資金負担の軽さ:手元資金を圧迫しない範囲で行える
間に合う節税策(即効性あり)
ここからは、決算直前でも実行可能な代表的な節税策をご紹介します。
少額減価償却資産の活用
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30万円未満の資産は、一定条件を満たせば全額を当期の経費に計上可能
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パソコン、事務机、工具などが対象になりやすい
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青色申告法人・個人事業主で、年間300万円までの制限あり
消耗品費の計上
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決算日までに使用予定の備品や事務用品を購入
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使用予定が明確で、保管状況が記録できることが必要
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高額品は減価償却資産扱いになるため注意
役員賞与(事前確定届出給与)の支給
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事前に税務署に届出している場合のみ有効
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決算期末日までの支給が必要
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社会保険料負担も考慮して判断
修繕費の前倒し実施
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建物や設備の修理・補修費用を決算前に実施
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資本的支出に該当しない範囲であれば全額経費化可能
間に合わない節税策(来期に回すべきもの)
決算直前では実行が難しい、または当期の節税効果が期待できない施策もあります。
これらは計画的に進める必要があるため、来期以降の対策として検討しましょう。
生命保険を活用した節税
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契約から保険料引き落としまでに時間がかかる
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税務処理が複雑で、決算直前では検討や手続きが間に合わないことが多い
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返戻率や保険期間の設計には時間をかけるべき
小規模企業共済の加入
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申し込みから引き落としまでに1〜2か月以上かかるケースが多い
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掛金は全額所得控除になるが、年内や決算期内に開始できない場合は来期以降にずれ込む
設備投資の即時償却
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大型設備は見積もり、契約、納品までに時間を要する
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リース契約も審査期間や納品期間がネックになる
青色申告特別控除(65万円)の適用
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記帳方式や電子申告の事前準備が必要
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決算直前では帳簿付けや電子申告の要件を満たすのが困難
間に合う節税策・間に合わない節税策の比較表
| 節税策 | 間に合うか | 実行条件 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 少額減価償却資産の活用 | ○ | 30万円未満、年間300万円まで | 高額品は対象外 |
| 消耗品費の前倒し購入 | ○ | 決算日までに使用予定が明確 | 過剰在庫は否認リスク |
| 修繕費の前倒し | ○ | 資本的支出でないこと | 大規模改修は経費化不可 |
| 役員賞与(事前確定届出給与) | ○ | 事前届出済み、決算日までに支給 | 社会保険料負担増 |
| 生命保険活用 | × | 契約・引落まで時間が必要 | 長期的視点が必要 |
| 小規模企業共済 | × | 加入から引落まで時間が必要 | 掛金額の設定に注意 |
| 設備投資の即時償却 | × | 契約・納品が期内に間に合う場合のみ | 大型案件は不可 |
| 青色申告特別控除65万円 | × | 帳簿・電子申告要件の事前準備が必要 | 記帳体制の整備が必要 |
節税策を選ぶ際の注意点
節税は「税額を減らす」ことが目的ではなく、「事業を健全に成長させる」ための手段です。
決算直前の節税策を選ぶときは、以下のポイントを意識しましょう。
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資金繰りへの影響を最優先する
節税のために現金を使いすぎると、翌期の運転資金が不足する可能性あり -
経費計上の根拠を残す
領収書や契約書、修繕の写真など証拠資料は必ず保管 -
将来の利益圧縮にならないようにする
過度な前倒し経費は翌期以降の利益確保を難しくする -
税務調査で説明できる施策に絞る
節税目的だけが見える取引は否認されるリスクが高い
来期に向けた節税準備リスト
決算直前にできることには限界があるため、来期の節税策は早めに仕込むことが重要です。
以下のリストをもとに、年間を通して実行計画を立てましょう。
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小規模企業共済・iDeCoの加入
掛金の全額所得控除が可能。資金繰りと老後資金形成を両立できる -
生命保険・法人保険の見直し
節税効果と保障内容を両立する契約設計を行う -
青色申告特別控除65万円の適用準備
電子帳簿保存法への対応、クラウド会計ソフトの導入 -
設備投資計画の事前立案
納品時期や減価償却方法を含めて年間スケジュール化 -
役員報酬の適正化
年間の利益予測に応じて、損金算入される範囲で設定 -
交際費の計画的利用
中小企業の800万円までの損金算入枠を有効活用 -
経費区分の見直し
修繕費と資本的支出の仕分けルールを整理
実行ステップ
節税対策を効果的に実行するには、次のステップが有効です。
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現状把握(利益予測とキャッシュフローの確認)
決算予測をもとに、利益水準と資金余力を把握 -
優先順位の設定
即効性のある施策と長期的な施策を分類 -
実行スケジュールの作成
契約や発注のリードタイムを考慮してカレンダー化 -
専門家との相談
税理士や社労士に事前確認を依頼し、リスクを減らす -
実施後の記録保存
領収書、契約書、議事録、写真など証拠資料を整理
まとめ
決算直前の節税策は、即効性のある方法に限られますが、選び方次第で税負担を軽減しつつ、翌期の事業成長にもつなげられます。
一方、間に合わない施策や来期に向けて準備が必要な施策も多いため、早期計画と専門家の助言が欠かせません。
節税は「お金を使って税金を減らす」行為ではなく、「事業の成長と将来の安定のためにお金を使う」行為です。
短期的な節税だけでなく、長期的な経営戦略の中でバランスを取ることが成功の鍵になります。

